読書記録:親友歴五年、今さら君に惚れたなんて言えない。2 (角川スニーカー文庫) 著 三上こた
【告白するリスクを抱えながらも、勝負の夏を仕掛けよ】
陸と碧は銀司に誘われた真夏の舞台で、思わぬ想い人·香乃の横やりが入る物語。
人を好きになる事は素晴らしい事である。
では、友情を壊してまで人を好きになる事は果たして正しい事なのだろうか?
関係を今よりもっと、進展させたいと決意すれば、どうしても踏み込む必要がある。
先延ばしにする程に、告白は難易度が跳ね上がる。
距離が近すぎる故に、今一つ進展が見られない陸達も、思いがけない香乃との再会で選択を迫られる。台風のような初恋は過ぎて、残ったモラトリアムの終焉。
じれたくてもどかしい、あと一歩の距離が踏み出せない陸と碧が、次のステージに進む為に必要なのは何なのか?
それは、恐らく過去と向き合う事。
きちんと過去を乗り越えられるからこそ、新しい関係へと踏み出せる筈だから。
そんな気付きを与えてくれる、二人にとって知己な間柄である香乃の存在。
当然、こんな運命のような再会をした事に、何かしら意味があるように感じられて警戒もする。
しかし、過去の事など気にする素振りを見せない香乃の態度に陸は悶々とさせられ、そんな二人を眺めていると、どこか面白くない碧。
碧のヤキモチのような可愛らしい気持ちにも、陸は気付いている。
香乃への気持ちはもう既に切り捨てた筈で。
碧とちゃんと向き合いたいのに、過去のトラウマから、香乃へ眼が離せない。
そんな二人の苦悩を垣間見ていると、人間関係を築く事が、下手くそである事が良く分かる。
現実の人間関係とは、ゼロか100かで決めつけるのではなく、自分にとって損か得かを見極めて、割り切って付き合っていくのが常だから。
しかし、そんなある種、打算的なコミュニケーションを、彼らの青さが許しはしない。
元カノであり、友達だった香乃の出現によって、恋心に火がついて、追い立てられるように、陸に迫る碧。
そんな彼女のいつもと違う雰囲気にどぎまぎする陸。
両片思いなのに添い遂げる決意をいつまでも固めない二人に歯がゆい想いを抱く香乃。
距離感ゼロの友人同士な彼らを、からかいながらも、踏み出す為のアドバイスやヒントを授ける。
当の陸は、香乃にこっぴどく振られた経験を今なお、引きずっていて、それが碧に対する素直な気持ちを覆い閉じ込めてしまっている。
終わった恋の苦みをいつまでも味わっていてはいけない。
今ある、新しい恋を噛み締めて大人の階段へと進まなければならない。
過去の傷は新しい素敵な出会いで埋めるしかない。
恥ずかしい過去と向き合う事が、誇らしく胸を張れるような未来を迎える為の秘訣。
そんな真摯でドライな香乃の言葉を受けて、陸は過去の確執を清算していく。
「友情を壊してまで人を好きになるって、本当に正しいことなの?」
その香乃の問いには恐らく、正解という物がない。
自分の感情を完璧にコントロールする事など、不可能に近いので、その想いと向き合って、ぶつかって結果を試すしかない。
それは、既に居心地のよい関係が完成されている陸と碧にとっては、覚悟と勇気が必要な物で。
相手に踏み込む事で、今の関係を壊してしまうリスクもある。
でも、何かを変えるという事は、リスクなしでは成し得ない。
「友情を壊してまで人を好きになる」事は、香乃との場合は、間違いだった。
でも、碧と紡ぐ恋愛は出来るだけ正解を目指せるよう、もう、同じ轍を踏まないようにする。
意地悪な問いかけをした香乃に、その理由を逆に尋ねて、真の友情とは何か、一緒に考えていく。
過去に置いてきた忘れ物、それこそが、未来を拓く鍵である。
過去にやり残してきた物を拾いに行く。
陸と碧は、それぞれに眼を逸らし続けた過去を見つめ直し、今自分のやるべき事へと歩を進める。
その行き先で伝えたい想いを、ちゃんと聞いて欲しくて。
新たに契りを交わす、まっさらな誓い。
二人が未来で結ばれる為に、どうしても必要な約束。
相手の気持ちを確かめたいという切実な想いを元に、挫折しか見えない道行きを知ってもなお、ちゃんと、その約束を結実出来るのか?