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読書記録:灰原くんの強くて青春ニューゲーム 4 (HJ文庫) 著 雨宮和希

【虹色の青春で、灰色の世界を色鮮やかに変えよう】


【あらすじ】

夏休みの心のぶつけ合いを経て、陽花里との距離が急速に縮まった夏希。
その一方で、詩からの積極的なアプローチも続く事で、自分の中でひしひしと気持ちが、さ迷う中で。
夏希は夏休みの旅行で親密になった芹香からバンドに誘われる。

心から音楽を愛して「一緒に世界を変えよう」と絡んでくる芹香の熱意に心を動かされて。
文化祭ライブへと動き始める夏希。
さらに、彼女が作ったオリジナル曲の作詞を夏希が任せられてしまう。
初めて作詞作りに悪戦苦闘しながらも、夏希は大切な人を思い浮かべる。

「この曲を、俺が好きな女の子に捧げます」

文化祭という青春の特等席で歌う夏希の想いは何処へ向かうのか?
寄せ集めバンドによる一度きりの文化祭が今、始まる。

あらすじ要約

夏休みを経て、陽花里と詩に好意を寄せられる夏希は、芹香から文化祭で寄せ集めの余り者達で、バンドをしようと誘われ始まる物語。


青春の定義とは何であろうか?
青春とは恋愛、勉強、部活、エトセトラ。
人それぞれ、様々な答えがあるのかもしれない。
だが、青春とは、未知と選択の繰り返しでもある。
そう、「選択」である。
夏希は今、まさに選択を迫られている。
一周目の世界でけして得られなかった、二周目だからこその未知な状況に思い悩む事になる。

誰かに好意を抱かれる事は、素晴らしい事ばかりでない。
取捨選択を強いられるのは、苦悩と葛藤の連続だ。
誰かを選ぶという事は、別の誰かを選ばないという事だから。
夏希は、その溜まりに溜まった鬱憤を解放出来る機会を芹香から貰った。
ハリボテだった己の想いにけじめをつけ、先に進む為の救済してくれる音楽を。
今の居心地の良い関係性を変えたとしても。
ちゃんと想いを形にしたい。

夏休みの出来事から近づく陽花里との距離。
負けじと進む詩の積極的なアプローチ。
関わりが希薄な芹香に見破られる程に、夏希は分かりやすく懊悩していた。
そんな夏希を見かねて、文化祭でバンドをやろうと誘われる。

「一度しかないこの青春を、私達の音楽で世界を変えてやろう」
その熱い想いが、悩んでいた夏希にことごとく刺さり、彼女からの誘いを受けて、夏希は寄せ集めバンドの一員となる。

本番までは、残り一カ月半しかない。
訳ありメンバーの内訳は。
軽音部の影が薄いベーシスト、篠原鳴。
寡黙だが良い音を放つ先輩ドラマー、岩野健吾。
そして、ボーカルの芹香。
グルーヴ感を出せなくて、躓いたり。
なかなか、リズムが合わずに戸惑ってしまう。
けれど、手を抜く事はない、常に全力で。
自分の時間を全て音楽に捧げて、脇目も振らず、特訓していく。

宿願の本番に向けて、好きな物に寝食を忘れて没頭する毎日。
未体験な事ばかりだから、簡単には上手くいかない。
曲の練習、作詞の構成、バンドをやる意義など。
様々な壁を一つずつ越えていく。
その練習の中で、芹香からオリジナルの曲の作詞を依頼された夏希は歌詞の中に。
告白したい人への想いを忍ばせて、一つの曲を完成させる。
数多の壁を乗り越える中で、自分の中で理想像が出来てくるが。

バンドは生モノであり、音楽は刹那の煌めきであるから。
軽音部に馴染めないベースの篠原とドラムの岩野先輩と共に、不慣れで拙い演奏を巡る、心の亀裂が起こってしまう。
どうしても意見が対立する場面も生まれる。
それでも、その不満を円滑にチーム全体で共有して、打開策を皆で模索していく。
本来、夏希はそうやって、チームをまとめる役割が苦手だった。
それでも、敢えてその役割を買って出たのは、音楽で愛を伝えたい人がいるから。

今までは、繰り返した失敗を糧に前に進んできた。
これまでは、七年分の知識と経験の先取りというチートに頼ってきた。
しかし、これからはそれらの経験で強くなった自分で、身に起こる青春に、逃げる事なく責任を取る事が求められる。

それがトライアンドエラーの代償。
だからこそ、もう選択肢から逃げない。
ちゃんと、二人と向き合って一人を選ぶ。
陽花里と詩の想いにちゃんと、終止符をつける。
バンド活動を通して自分の感情に折り目を付けて、向き合っていく事を学んだから。

その為の手段として、音楽を選んだ。
確かに、事情を知らない赤の他人から見れば。
自分の想いを歌に乗せるなんて、青臭くて、馬鹿げていて、正気の沙汰とは思えないだろう。
間違いなく、自分の黒歴史の1ページに刻まれるとも思うが。
これ以外に、想いを昇華させる術を、今の夏希は持ち合わせていなかった。
それを支えてくれる心強いメンバーが、今の夏希には幸い、居てくれる。

音に乗せるからこそ伝わる想いや、さらけ出せる言葉がある筈だから。
青春の弾ける爽やかさと、それに伴う若さ故の羞恥的行動。
そんな眩しい光の舞台裏で、錯綜する未熟な心の陰。

気持ちを伝えても、それを受け止められず。
否応なく、傷つけてしまう青春の影。
光の道には、必ず影が伴う。
そこにはいくつもの、叶わなかった想いが残される。
それを分かった上で、選ぶしかない。
そうでないと、ちゃんと心に届かないから。

そんな複雑な色を内包する青春をぶつけ合いながら、迎えた集大成。
今まで積み重ねてきた努力が、結実として花開く。
花形の大舞台で、ギターをかき鳴らし、マイクで大声を轟かせ。
観客の声援と熱でさらにボルテージが上がっていく。

その音楽で、この想いで灰色の世界を変えてみせる。
色々、紆余曲折してしまったけれど。
やりたい答えは至ってシンプルで。
「好きな相手に気持ちを伝える」
ただ、それだけをやり遂げたかった。
青臭くて気恥ずかしいけれど、一度きりの歌に彼女の想いを全て託す。
想いを向けてくる彼女達の心を丸ごと受け止めて、
真のハッピーエンドを目指す事。
それが、夏希が過去に戻った意味でもあるし。
それこそ、本当の意味での虹色の青春だから。

傷付けたとしても、これが自分の選んだ答えだから。
その気持ちを情動に変えた、切なる告白はちゃんと彼女の元に届いた。
そして、一つの恋の成就と、一つの失恋が生まれた。
その結実は、確実に彼らの関係に波紋をもたらす。
それぞれの道を歩み始めた仲間達。
それを少し、寂しく思いながらも、後悔は感じない。
賽は既に投げられたから。

ここから先は真の意味でのニューゲーム。
強くてニューゲーム出来ても、ハーレムルートなどのような当たり障りのない結末は選べない。
選択とスタートの果てに、再び一人きりになった夏希。
支払った青春の代償と責任は、重く夏希の肩にのしかかるが。
また、皆で笑い合える未来を迎えたいから。

灰色の世界でやり直しの真価が問われる夏希は、どんな選択で、世界を虹色にするのだろうか?



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