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読書記録:わたしの幸せな結婚 五 (富士見L文庫) 著 顎木 あくみ

【夢の中に在る過去が、あの人へ告げる想いを邪魔する】


【あらすじ】

清霞が向けてくる想いの意味に気が付いた美世。
二人の間に、仄かに幸せな風が吹き込む中で。

帝都は異能心教の侵略で、陥落の憂き目に遭っていた。
皇太子の堯人の提案で、美世は葉月とゆり江を伴って、都落ちして宮城に逃避する。
夢見の力で過去の記憶に遡った美世は、甘水直と継母である斎森澄美が、狂気的な愛の逃避行の果てに別離した事がきっかけで、その原因を作った国家を怨念のように憎んでいる事を知った。

だからこそ、清霞に対して、恋愛感情を抱いてしまう事を、何処かで恐れていた。
それは欲望のままに破滅した斎森家の人々の半生が物語り、戒めてくるから。

自らの芽生えた想いを否定して、清霞に親愛の情を向けるしかない美世。
今の関係が変わる事を恐れて、想いが告げられない美世は、ある夜、清霞から思わぬ本心を告げられる事になる。

あらすじ要約

帝都では甘水率いる異能心教が邪悪な侵略を始め、理由は異なれど同じ様に標的にされた美世と皇太子·堯人が身を寄せる宮城に暗雲が影を落とす物語。 


心から慕っている人に、「自分だけを見つめて欲しい」と、あるがままの気持ちをぶつけてしまえば。
その人を際限なく独占したいという欲が生まれてしまう。
それは、あくまでも自分本位な欲望。
一つ溢れて叶えられれば、またもう一つと。
満ち足りず、歯止めの効かない感情のままに。
どんどん、我が儘になっていってしまう。
心から慕っている筈の、想い人の人生を縛る、重りと枷になってしまう。

それ故に、人の感情の中でも、恋愛感情という物は厄介である。
他の感情を忘れてしまうような、激しく燃え上がるような情念だから。
人生には、恋愛以外にも素敵な事がたくさん眠っている筈なのに。
そればかりに、心が執着して、囚われてしまう。

その行く着く先は、恋に狂って、自分の人生を傷付けて破滅する終着点。
恋愛感情は世間の風潮では、美談のように描写されるが。
荒んだ家庭環境で育った者や、愛に裏切られて臆病になった者にとっては。
大切な人に恋愛感情を打ち明けるというのは、恐怖でしかないのだ。

だからこそ、恋愛感情を、親愛という感情に置き換える。
差し迫るような欲望を吐き出せないのは、切なくて寂しいけれども。
想いに蓋をすれば、大切な人を悩ませなくて済む。
愛を打ち明けず、親愛の情で繋がっていられれば、いつまでも一緒にいられる。
今巻は、そうやって清霞に対する想いに蓋をしていた美世が、自分の甘えと決別する物語になる。

異能心教による帝都の略奪。
それは、日本に大きな奔流をもたらし、権威争いに終始する帝達に吉凶を施す。
一方で、浅からぬ因縁を抱えていた美世と堯人。
開かれた婦人会という名のお茶会で。
堯人が美世に語った、代々、継承されてきた血脈の宿縁。
二人は、意外な因縁で繋がった、互いがまさに仇と呼べる存在であった。
宮城で共に過ごす中で、複雑な胸懐を呼び起こす。
そして、夢見の能力を持つ美世を、国家反覆の為に利用する異能心教の奸邪な影が迫り来る。

美世の夢見の力にまで、いやらしく侵入してきた甘水。
甘水は既に軍の指揮系統も、政治の中枢も掌握していた。
彼の人の思考をコントロールする異能によって、密かに内通者が作られていた。
異能心教は、国家を担う内閣にまで浸透していた。

美世を何としても、自分の支配下に置きたい甘水。
彼女を手に入れる為に最大の障害になるのは、許婚である清霞の存在。
彼を美世から遠ざける為に、薄刃家の勢力を再興するという交換条件を持ちかけて、薄刃新を寝返らせた。
帝誘拐の犯人という、謂れのない罪を、清霞に被せて、反逆者に仕立て上げた。

その用意周到に仕組まれた罠によって、清霞は捕縛されて、囚われの身となる。
別れ際に清霞が心配させまいと耳元で囁いた、「愛している」の重み。
一緒に夜を共に明かした際に語ってくれた、彼が思い描く幸福な未来予想図。

そんな愛しの人の絶体絶命の窮地を目の当たりにして。
信頼していた仲間である新に裏切られた事実にも打ちのめされながら。
それでも、今まで守られるばかりだった美世が、己の身を捨てる覚悟で立ち上がる。
まだ、旦那様にちゃんと想いを告げられていない。
いつか、その時になったら伝えようは、自分自身の甘えだった。

関係の終わりはいつだって、予期せぬタイミングで起こって。
大切にしまっていた想いは、その役目を果たせないまま、心に後悔という名の棘を残す。
伝えられる時に、ちゃんと想いを告げる事こそが、誠実であった。
たとえ、その想いが報われなくとも。
こんな別れ方だけは、絶対に嫌だった。
望んでいない宿縁や生い立ちに、生き方を邪魔されて、振り回されるのは、もうたくさんだった。

真の幸せを勝ち取る為には、苦境に飛び込まなければならない。
人を傷付ける事も、自分が傷付く事も厭ってはならない。
絶対に、自分に生きる指標をくれた清霞を助ける。
もう一度、旦那様に優しく、蕩けるような声で名前を呼んで欲しいから。
「好き」や「愛している」すら超越した、互いを尊敬して慈しむ情を、一緒に育てて行きたいから。
二人で共に帰りたい、自分達の居場所となる家があるから。

お淑やかな着物から、戦う為の袴に着替えて、美世が挑む初陣。
最早、悠長に王子様の迎えを待つお姫様ではいられない。
その悔恨を力に変えて、底が窺い知れない首魁、甘水の元へ、単身で乗り込んでいく。
明らかにこれは、清霞を餌として自分の元に美世を誘い込む罠だった。
しかし、卑劣な罠だと分かっていても、美世は渦中に飛び込む。

引き返す為の橋を焼くような決死の覚悟。
背水の陣で挑む、幸せを掴む為の最終決戦。
立ち塞がるは、人の心を自在に操る、過去の妄執に取り憑かれた宿敵。
追い込まれた美世の夢見の力はどのように覚醒するのか。
そして、美世達を裏切って、異能心教側に寝返った新との関係はこのままで終わってしまうのか。

果たして、美世は忌まわしき過去を振り払って、囚われの身である清霞を救い出せるのだろうか?












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