なぜ人は間違えるのか?ほとんどの人が嵌ってしまう落とし穴『フワッと、ふらっと、確証バイアスの心理学』
ある考えや信念を持っていると、その信念を支持する情報ばかりに注目し、逆にそれに反する情報を無視してしまう心理的傾向を確証バイアスといいます。
たとえば、自分が「Aという商品は良い」と思っていると、それを裏付ける口コミやレビューを積極的に探し、悪い評価は無視したり軽視したりします。
このバイアスは、自分の信じたいことや好みに合った情報だけを集めてしまうことで、偏った判断をしやすくなります。
ニュースやSNSでも、確証バイアスが働くと自分の意見と同じものばかりを目にし、異なる視点に触れる機会が少なくなります。
自分が応援しているプロスポーツチームが勝つ試合のニュースばかりを注目し、負け試合のニュースは見ないとか、
ある健康法が効果的だと思う人は、その方法を支持する研究結果や体験談ばかりを探して、反対の研究や失敗例は無視するなどがあります。
これによって、視野が狭くなり、バランスの取れた判断をするのが難しくなることがよくあります。
かつて、確証バイアスを実験で確かめようとした人がいました。
ウェイソンという心理学者です。
実験は以下のようなものです。
『上記のような、カードがあって、このカードには、
片面に、アルファベットの文字が1文字、
その裏面には、数字1文字が書かれていて、
これらの文字・数字は、
「片面に書かれているアルファベットが、「母音」ならば「裏面」は偶数でなければならない。」
という、ルールに基づき書かれています。
このルールを確かめるためには、4枚のカードのうち、どのカードをめくればいいでしょうか?』
このようなお題を、被験者に与え答えさせるという実験です。
ちなみに、正解は、「Oと5」をめくるです。
ところが、正解を「Oと8をめくる」または「Oだけめくる」とした人のほうが実験では多かった(両者あわせて79%)ようです。
正解である「Oと5」をめくると答えた人はわずかに4%であったとか。
今一度、カードの確認をしてみましょう。
この問題、なぜ「Oと5をめくる」が正解になるのかというと、
母音である「O」をめくって裏面を見て、
仮に奇数であれば、ルールにあっていないということがわかり、
偶数なら、ルールにあっているということがまずわかります。
次にめくるべきは、「5」です。
これの裏面が「母音」ならルールにあっておらず、「子音」ならルールにあっているということが確認できるからです。
なお、「M」と「8」はルールにあっているかどうかの確認のために、めくる必要はありません。
なぜなら、
「アルファベットが「母音」ならば「裏面」は偶数でなければならない。」
としかルールでは定めていないからです。
つまり、アルファベットが「子音」の場合については、
「奇数でも偶数でも」いいはずです。
ですから、子音である「M」のカードについては確かめる必要はありません。
また、偶数である「8」のカードについても、裏面が子音であっても母音であってもかまいません。
なぜなら、「8」の裏が「母音」であれば、
『「母音」ならば「裏面」は偶数でなければならない』
というルールに合致していますし、
「子音」の場合は前述したように、
「奇数でも偶数でもいいはず」
ですから、これまたルールに合致しています。
よって、「8」のカードについても確かめる必要はありません。
えっ?「難しすぎる!」って?
あっ、いいんですよ、ややこしく思えても。
実験でも、96%の人が間違えているんですから。
ややこしく感じたとしても全然普通です。
抽象的な問題については、
かなり気合を入れて思考しないと、
ゆるんだ気持ちで思考してしまうと、
人はたいてい間違えると考えていいものだと思います。
ウェイソンの実験は、大学生を被験者として行われています。
つまりある程度大人で、しかも思考力があるはずの大学生を被験者としています。
なお、理系の学生を被験者としても結果はほとんど変わらなかったようです。
なぜ、このような実験結果になったのか、
その理由は、ルールを「裏付ける証拠」を探しがちだったためと推測されます。
つまり、確証バイアスが働き、
ルールを否定するための証拠(5のカード)には目を向けず、
ルールを確認するための証拠(8のカード)ばかりに注目してしまったのが、
間違えた人が多かった理由ではないかとされています。
この実験は、人々が自分の信念や仮説を反証するよりも、
それを裏付ける証拠を優先して探す傾向があることを示しているものと思われます。
インテリであろうがなかろうが、人は自分の仮説を根拠づける証拠ばかりを探そうとするようなので、その推理もほとんどあてにならないということでしょう。
ただし、同様のパズルを、
前述のような数字とアルファベットのような抽象的なものではなく、
以下のような、飲み物と年齢という具体的なものに要素を変えると、とたんに正当率が、急上昇するようです。
『上記のようなカードがあって、このカードには、
片面に飲み物が、その裏面にはその飲み物を飲んでいる人の年齢が書かれています。
「アルコールを飲んでいるのであれば、20歳以上でなければならない。」
という、ルールがあるとして、
それを確かめるためには、4枚のカードのうち、どのカードをめくればいいでしょうか?』
この問題は、抽象的なものではなく具体的なものであり、
また「実生活上のルール」と同じルールに基づくものであるので、わかりやすいのでしょう。
一応、解答の解説をしておきますと、まず「ウーロン茶」のカードはめくる必要がありません。
これはこの問題のルールでも実生活上のルールにおいても、何歳であろうが飲んでいいものですから。
また「21歳」のカードもめくる必要はありません。
この問題のルールでも実生活上のルールでも、
21歳の人は、酒であろうが、ウーロン茶であろうが飲んでいいわけですから。
ですので、めくるべきカードは、ルール違反の可能性がある「日本酒」・「17歳」のカードであるということになります。
これらの実験結果によれば、
どうも、人は誰しも、抽象的な論理的思考は苦手なようですが、
逆に日常経験から得られた知識に基づく、実用的なスキーマ(思考のクセのこと)が使えるような問題になると急に勢いづくみたいです。
とすると、抽象的な内容の問題について考える場合は、
具体的な問題を考える場合よりも、より人はあいまいで、
いいかげんな、ぼんやりとしたファジーな結論しか得られず、結果誤った判断をしてしまう場合がほとんどだということになります。
最近はこのような人間のファジーさを逆手に取った、マーケティング手法などが採られる場合がよくあります。
人の考えはあいまいでよく間違えるという心理学上の知見に基づいた経済学を行動経済学と呼んでいますが、行動経済学の理論をマーケティングに取り入れるなどして巧みな経営戦術が採られることが増えてきています。
(行動経済学については以下をご参照ください)
確証バイアスに陥らないためには、意識的に自分の思考や判断をアジャスト(調整)する必要があります。
感情や直感だけに頼らず、
客観的なデータや事実に基づいて判断を下すようにする、
自分の考えや結論が本当に正しいのか、
自分に対して問いかける姿勢を持つ、
できるだけ感情を排し、中立的な立場で情報を評価するなどを心掛けると、確証バイアスの落とし穴に簡単に嵌ってしまうことは避けられることでしょう。
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