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#不思議系小説 ニューシネマ・パラダイスシティ

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幻想と日常、後悔や嫉妬、死 色んな不思議を文章にしてまとめました 長いのから短いのまで、超現実的非日常体験をどうぞ ヘッダー画像は時々変わります
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#オリジナル小説

#不思議系小説 粘膜商店街

#不思議系小説 粘膜商店街

 腐敗ガスを動力にして走る肉骨(にっこつ)バスが1メートル80センチほどの骨格標本に肉新庄(にくしんじょう)と乱雑に書いたブリキ板を打ち付けただけのバス停に到着する。肉骨バス特有の、上腕三頭筋の感触に近いクッションにぶよぶよの皮膚を張り付けたシートの座り心地は最悪で、足早にバスを降りた。

 ほかに降りる客は居らず、肉骨バスは再びしゅうしゅうがしゅがしゅと目に沁みるような臭いのする腐敗ガスを撒き散

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#不思議系小説 ニューシネマ・パラダイスシティ

#不思議系小説 ニューシネマ・パラダイスシティ

 赤潮
 寄せては返す波打ち際を赤く染めるほどの微生物の死骸
 それに群がる小魚の群れ
 それを狙う肉食魚
 それは俺の血管の中で寄せては返す小さな命の群れ。細胞、血液、精液、精子、ミトコンドリア、核
 血潮

 今日も俺がどうかしていることを確かめるためだけに書き続けた日記がある。
 すっかりくたびれた表紙に、かつてなんていうタイトルを付けたのか、もうわからない。もう思い出すこともないのだろう。

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#不思議系小説 Atrapamoscas

庭の片隅の日なたで
ハエトリソウが歌い出す
大きく口を開けて
小さな体を揺らして
細い茎に不釣り合いな
大きな口を開けて
小さな声を聴かせて
じっと見つめていると
今にも喋り出しそうだ
モウセンゴケの玉粒が
水を浴びてキラキラと
乱反射する
その一粒一粒に閉じ込めた
違う未来と世界の自分が
一斉にこっちを見つめてる
全部の自分と目が合って
ハエトリソウの歌が
いつの間にか止んでいる
全部の自分と目

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#不思議系小説 臨界都市

 まるで透明なガラスを張ったように目の前に付きまとう違和感を振り払おうと、少し首を振って空を見上げた。青すぎるほど晴れ渡った空と自意識の間には、やっぱり透明なガラスがあるような気がしてならない。雨が降ればこの体は濡れるし、心も風邪をひく。誰と話しても、触れても、重なり合ってもなお、このガラスからは解放されないでいる。
 何もかも嫌になるし、誰も彼も憎たらしい。きっと向こうもそう思っている。すれ違っ

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#不思議系小説 佐布里

 いつもは無駄に早起きをしているのに、今日に限って寝過ごして憂鬱なまま目を覚ました──

 のっそりと起き上がって体をほぐしながらトイレを済ませ手を洗い、そのまま顔を洗ってタオルで拭く
 臭い
 このタオル、ゆうべから取り換えていないらしい。どうしてこう生臭くて変にすっぱいタオルが平気なんだろう。長年暮らしている実家の家族に朝から苛立ちながら歯磨きをする。ドラッグストアのポイントと交換した景品の歯

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#ダイエットは死語になりました

 毎日毎日、まったく息苦しいったらありゃしない
 それはただ単純に僕が極度の肥満体型であるからだけではなく。今この御時勢がデブにとっては実に息苦しいことこの上ない、という意味もある。テレビのコマーシャルではダイエットサプリに血圧、血糖値、コレステロールを如何にかこうにかするものばかり。
 食べたい! でも、気になりますよね!?
 なんて。聞かれるまでもないことをイチイチ大袈裟で恩着せがましく押し付

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#不思議系小説 池袋地獄変

 2008年の冬頃。東京。寒い夜に彼女とお酒を飲んだ流れでホテルに入った時の話。
 週末のこと、あの一帯のホテル街は何処も満室で酔いが醒めれば興も冷めるとばかりに飛び込んだのが、問題の場所だった。

 新しく買ったばかりの黒地に白い水玉のワンピースに合わせた薄手のコートが良く似合う、背が高く顔立の整った黒縁眼鏡の彼女と手を繋いで街中を歩くのはいい気分だった。そのまま古ぼけたホテルのフロントに上がる

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#不思議系小説 肉洞

 どこかから聞こえてくる妙な音で目が覚めた。地鳴りのような、低い低いサイレンの音の様な……自分で聞いたことはなかったが、戦時中の空襲警報って、あんな音だったのではないかと思う。とにかく気持ちの底からざわざわと不安が押し寄せてくるような音だった。
 僕は温かい布団の中から足を出した。ひんやりした空気が火照った爪先に心地よく、それをまた冷えた布団の表側にあてていると、再びとろりとした濃厚な睡魔がやって

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#不思議系小説 タリスマン

 青く、どこまでも晴れた遠くの空の下でもうもうと立ち上る黒煙を見ていた。車も人も通らない田舎道。のどかな陽射しとぼんやり浮かぶ真昼の月。それとは対照的に、どこかで誰かの財産が、命が燃えている。
 ぼがん
 と低い音が響いて、ひと際大きな黒煙の塊が上っていった。青空のバケツに墨汁を流し込んだように、黒煙は高く高く上っていって、やがて薄く散っていった。

 ちりん。
 谷町九丁目の交差点。千日前通は深

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