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#不思議系小説 ニューシネマ・パラダイスシティ

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幻想と日常、後悔や嫉妬、死 色んな不思議を文章にしてまとめました 長いのから短いのまで、超現実的非日常体験をどうぞ ヘッダー画像は時々変わります
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2020年12月の記事一覧

#不思議系小説 佐布里

 いつもは無駄に早起きをしているのに、今日に限って寝過ごして憂鬱なまま目を覚ました──

 のっそりと起き上がって体をほぐしながらトイレを済ませ手を洗い、そのまま顔を洗ってタオルで拭く
 臭い
 このタオル、ゆうべから取り換えていないらしい。どうしてこう生臭くて変にすっぱいタオルが平気なんだろう。長年暮らしている実家の家族に朝から苛立ちながら歯磨きをする。ドラッグストアのポイントと交換した景品の歯

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#ダイエットは死語になりました

 毎日毎日、まったく息苦しいったらありゃしない
 それはただ単純に僕が極度の肥満体型であるからだけではなく。今この御時勢がデブにとっては実に息苦しいことこの上ない、という意味もある。テレビのコマーシャルではダイエットサプリに血圧、血糖値、コレステロールを如何にかこうにかするものばかり。
 食べたい! でも、気になりますよね!?
 なんて。聞かれるまでもないことをイチイチ大袈裟で恩着せがましく押し付

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絶対不幸也自分依存症。

 不幸であることに依存している連中がいる。お互いの不運を嘆きあい、報われない恋愛のなかで泥まみれになって重なり合うことだけが生きがいの喧しい連中があなたの友人にもいやしないだろうか。自分たちの跳ねた泥がどれほどまき散らされ、自分や相手を汚しているかなどと思いもしない幸せな連中が。
 傷跡を開き、血を流して、泣き叫びながら、己の不甲斐なさや相手の非道を声高に垂れ流す。まるで四六時中ハウリングし続ける

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#不思議系小説 池袋地獄変

 2008年の冬頃。東京。寒い夜に彼女とお酒を飲んだ流れでホテルに入った時の話。
 週末のこと、あの一帯のホテル街は何処も満室で酔いが醒めれば興も冷めるとばかりに飛び込んだのが、問題の場所だった。

 新しく買ったばかりの黒地に白い水玉のワンピースに合わせた薄手のコートが良く似合う、背が高く顔立の整った黒縁眼鏡の彼女と手を繋いで街中を歩くのはいい気分だった。そのまま古ぼけたホテルのフロントに上がる

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#不思議系小説 肉洞

 どこかから聞こえてくる妙な音で目が覚めた。地鳴りのような、低い低いサイレンの音の様な……自分で聞いたことはなかったが、戦時中の空襲警報って、あんな音だったのではないかと思う。とにかく気持ちの底からざわざわと不安が押し寄せてくるような音だった。
 僕は温かい布団の中から足を出した。ひんやりした空気が火照った爪先に心地よく、それをまた冷えた布団の表側にあてていると、再びとろりとした濃厚な睡魔がやって

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#不思議系小説 タリスマン

 青く、どこまでも晴れた遠くの空の下でもうもうと立ち上る黒煙を見ていた。車も人も通らない田舎道。のどかな陽射しとぼんやり浮かぶ真昼の月。それとは対照的に、どこかで誰かの財産が、命が燃えている。
 ぼがん
 と低い音が響いて、ひと際大きな黒煙の塊が上っていった。青空のバケツに墨汁を流し込んだように、黒煙は高く高く上っていって、やがて薄く散っていった。

 ちりん。
 谷町九丁目の交差点。千日前通は深

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海岸線(本日も異常なし)

 海だ。よく晴れた今朝も目の前には広大な海が広がっている。まばゆい太陽光をきらきらと反射させた大きなうねりが波濤となって濃い藍色をした水面をぐわっと持ち上げ、やがて左右からどどどどうっと崩れながら白く乾いた砂浜を洗ってゆく。遠くどこまでも続くこの砂浜と遮るもののない青空が、水平線を彼方に揺らす青い青い海と見事に調和している。
「本日も異常なし」
 わたくしは誰に言うでもなくつぶやいた。この広い砂浜

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