0 どうしようもなくなったとき僕は本当のことを書いてきた。 でも本当のことだって、読んでくれる人に気づかれるのが恥ずかしくて、「小説だよ。」「ファンタジーだよ。」って嘘をついてきた。 でも今日は本当に伝えたいことがあって、こんな書き出しをしている。 どうしようもなくなるというのは、僕の感情がどうしようもなくなるということ。 うれしくて、悲しくて、どうしようもなくなる日が大人になっても来る。 そうだ。具体例をだしたほうがわかりやすいね。 例えば、この勉強机。 若
「好きな人にプレゼントをあげる時は中身にたくさん香水をかけてあげるといいよ。」 母は単身赴任先の父に贈り物をするとき、 いつも僕にそう言い聞かせた。 「どうして?」 「大人になったらわかるよ。」 幼い頃の母との会話を思い出したのは、遠くに住む彼女からの贈り物を開けたときだ。 ダンボールを開けた途端に部屋中に彼女の香水の匂いが広がった。 「来月ね。」 小さな紙にぶっきらぼうにそう書かれていた。 僕はやはり彼女が好きだと思う。 急に寄りかかっても何も言わない感じとその時の
1 「どうしたの颯真?」 大勢のクラスメイトが合唱の練習を中断して僕の泣き顔を覗き込んだ。 文化祭は1週間後に迫り、合唱の練習もラストスパート。 僕もクラスメイト同様に合唱の練習に熱中していた。 しかし、今日突然、声がでなくなってしまった。 「クラスの合唱としてはとてもきれいだよ。だから今後は、1人1人が自分自身の持っている想いや情熱を歌詞に乗せて運んでみて。文化祭はみんなの”表現”のための場所だから」 と担任が言った。僕もクラスメイト同様に、担任が言っていることを
1 僕が小さいおっさんをつくることに成功したのは小学6年生のときだ。 学校の裏にある山を少しの登ったとこにある小さな小屋が僕だけの秘密基地だった。狭い空間にさび付いた一斗缶やロープが大量に散らかっているだけの小屋だったけど、それが僕にとって1人遊びをするための大切な場所だった。 小学生の頃、運動神経が悪かった僕は仲間外れにされていた。 みんな放課後はサッカーをするのだけれど、仲間外れの僕は1人遊びをするほかに選択肢がなかった。 ある日、輪の中心の高橋が 「お前、のろい
1 首つりをしようと思って、椅子に足の裏をつけたとき。 不意に昔、自分が見た実家での何気ない日常の一コマがフラッシュバックした。 夕食を食べながらテレビを見ているといじめを苦に自殺をした中学生のニュースが流れてきた。 「弱いよなあ。死ぬ前に嫌な奴全員に報復してから死ねばいいのに」 父がぼんやりとそう呟いた。 たしかに理にかなっていると思った。 もう死ぬと決めたら何をしても変わらない。 例えば、殺人をしでかしたとしても自分は死んだ瞬間、この世界とも無関係になり、逮捕さ
1 気がつくと、そこは辺り一面が砂浜であった。 波がまるで生きているかのように鳴いている。 そこは紛れもなく、自分が生まれ育った町にある小さな海水浴場だった。 一体、何年ぶりだろうか?久しぶりに見たせいだろうか? 見慣れた海もたいそう美しく見える。 海に入るにはまだ早いが、海辺の散歩にはちょうど良いぐらいの気温である。自分は半袖を着ていて、そこから見える皮膚は若かった頃のように小麦色の光沢をまとっている。試しに砂浜を全力で駆け抜けてみる。そうすると足裏がはねるように、砂を踏
1 「お前。大学辞めるって本当かよ。」 講義室の最後列ではいつものごとく勇気が待っていた。 「別に辞めたくて辞めるわけじゃないさ。でも学費払えないんじゃしょうがないだろ?お前が50万貸してくれるってんなら話は別だがな。」 「あはは。愛しの友にも50万は出せねーよ。こっちもぎりぎりなんだから。」 教授が黒板の前に立ち、講義を始める。 僕は教授の話は一切聞かず、SNSで金取りの良さそうな求人を探した。 求人探しに夢中になっている間に授業は終わった。 学生たちがぞろぞろ
1 これは僕がまだ中学2年生のころのお話。 当時の僕はかなり深夜にゲームをすることが好きだった。 明日、学校があるのにおかまいなしで午前3時までずっとネッ友とゲームをしていた。 午前3時までネッ友とゲームをしていたなんて言ったら、みんな自分を不登校で学校に友達がいないような子供だと思うだろう。 それは、半分正解で半分不正解だ。 自慢じゃないけど、学校には毎日行っていたよ。なんなら学級委員だったし、先生から見たらクラス1の人気者だったと思う。勉強もスポーツもできるほう
1 ある日の夕暮れのこと。 私は自殺をしに自宅から徒歩10分ほど離れた踏切まで歩いていった。 私が自殺する要因の1つとして私が俗にいう子ども部屋おじさんになってしまったことがあげられる。 大学を出た後、地元を出て東京の有名企業に就職し、そこで働き始めて1年が経過した頃、急に朝ベットから起き上がれなくなってしまった。 目は覚めているのに体がなまり玉のように膠着してしまって動きようがないのだ。起き上がらなければならないと自分自信を奮い立たせるほど、涙が出てくる。 どう
1 あなたがもしお金のない若者で、近所のスーパーの弁当コーナーで1200円の高い焼き肉弁当をうまそうだなーって見るだけ見て、いつものごとく半額157円ののり弁を買うような生活をしているとしましょう。 そこにひとりのいかにも裕福そうな老人が来て 「2ヶ月で10億円の収入を得られる仕事があるんだけどやりませんか?」 と言われたらあなたはこの局面をどう考え、どう行動しますか? こんな現実離れした想像をすることはあなたには難しいかもしれない。 ただこれは実際1年前私の身に降
1 隣町との戦争が終わってもう3年になる。 荒廃した町は驚くほど早く復興し、町の人の脳内にはもう戦争という堅苦しい漢字二文字は存在していない。 唯一目に見える戦争の痕跡はいつも交差点の前に座っている片腕がない物乞いである。 彼はかつて3年前の戦争で戦った英雄である。しかし、この兵士は片腕を失ったことで兵士の職を失って物乞いとなった。 その肘から先の無い腕を人は数奇の目で見て、気分が良いときに石ころを投げるように金や食べ残しを彼の元に投げるのであった。 今日もそろそろ
鉛玉のようになった僕はベッドにスーツのまま寝転んだ。 さすがに働き過ぎてしまった。 月末の納期に間に合うようにここ2週間はほぼ徹夜で働いていた。 大卒3年目、25歳。やりがいのある職場で初めての部下もできた。 自分の仕事だけではなく、部下のサポートまで完璧にこなしていたら眠る時間などなかった。 しかし、体はもう学生のときのように若くないみたいだ。 もうあと10秒後には熟睡しているだろう。 するとスマートフォンが通知音を鳴らした。 「あみが亡くなったようです。こちらが通
このお話の主人公。つまりこのお話を書いている私は死を目の前にした病人です。従軍中に金属の破片がお腹に入ってしまいこのまま死んでしまうようなのです。 私は20年ほどジャーナリストとして働きました。 私の取材対象は凶悪犯罪者でした。殺人、麻薬の密売、マフィアの幹部などたくさんの極悪人と刑務所で面会し、取材し、それを雑誌に載せてきましたが、死の直前になって思い出すのはあの’白い悪魔”のことです。 この”白い悪魔”のことを雑誌に載せたこともなければ、飲み屋で話したこともありませ
みなさんこんばんは。ココロラジオのお時間です。 とはいっても第1回目の放送なので、急に番組名を言われてもピンと来ませんよね。番組名はココロラジオです。しかしそれ以外は何も決まっていません。とりあえず今から自分が長い間1人しゃべりをします。かといって1人で1時間話し続けられるほどの話術はありません。ですから、メール送ってください。メールを送ってくださればそれを元になんとかお話を膨らませて1時間埋めていきたいと思います。 えー。そういえば自己紹介をしておりませんでした。 私の名
1 父親の葬式で喪主をしない長男坊がいるだろうか? 弟からせめて葬式だけでも顔を出すようにとLINEで釘を刺された私は、弟が喪主をする父親の葬式に今タクシーで向かおうとしている。 私は、高校を卒業してから遠方の大学に行き、そのまま遠方の地に就職した。卑屈で陰湿だが、勉学だけは優れている私は学者となった。 仕事が忙しくもう15年ほど地元には帰らなかった。 私の仕事は給料がよく、更に結婚もしていないため常にお金には余裕があり、両親の通帳に月20万円を振り込んでいた。 今
遼太郎へ。 「なぜ自分はこんなに生きづらいんだろう」と君がつぶやいたときに何も言ってあげれなくてごめんなさい。君が何を言っているのかが忙しすぎて分からなかったのです。余命残りわずかの人生をゆっくり病室で過ごすようになってようやく君の言いたかったことが分かりましたので、君に手紙を書くことにしました。人間というのは皮膚で区切られた宇宙なのです。広大な空間をいったりきたりできるはずの宇宙が人間の皮膚の中に閉じ込められてしまい苦しい苦しいとわめいているのです。そのわめき声があなた自