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#11 テスカトリポカ(佐藤究)

書評

さすがは直木賞作品。684ページにわたる、読み応えのある超大作でした。謎に包まれた序盤、伏線が絡み始める中盤、一気に展開する終盤、この流れにアステカの神話が絡み合い、神秘的な余韻の漂うハードボイルド・ミステリーという感じ。

謎すぎる第一章

最近流行りの「虐待もの」という安易さを忘れさせるほどエピソードが満載。メキシコ、東京、メキシコ、アステカ帝国、そして、過去と現在を行き来しながら、不気味な主人公・土方コシモから目が離せなくなると思いきや、焦点は麻薬カルテルの生き残りバルミロ・カサソラへと移り、「何が起こっているのか?」が分からないまま物語は淡々と進んでいく。ここで魂を鷲掴みにされた読者は多いはず。まさに最強の掴み。

不穏なまま進む第二章

とにかくコシモが出てこないまま、インドネシアに逃げ切ったバルミロと日本人の闇医者との繋がりが延々と言及される。新たな麻薬ビジネス、麻薬カルテルの復興を匂わせつつ、物語の核心に至らない進行に焦らされつつも、その後の大きな展開に期待を抱かせる描写が秀逸。

歯車が噛み合い始める第三章

少年院を出所したコシモ、日本で犯罪拠点を構築し始めるバルミロ、コシモの親代わりとなるパブロ、犯罪組織に加担してしまう麻薬中毒の矢鈴などの関係が密になるとともに、「何が起こっているのか?」が明らかになり、読み進めるための指標が確立される。

一気に展開する第四章以降

ここまで抽象的だった関係性が一気に具体性を帯び、事件の解決まで突っ走る。なかでも目を引いたのは、犯罪(虐待された児童を引き取って健康に戻した後の臓器売買)の恐ろしさとそのビジネスを成功させるためのコンセプトの悍ましさ。ひとつが「バイオセンチメンタリティ」。臓器提供者が綴った健気な日記を受容者に提供することでビジネスの価値を高めるという戦略。もうひとつが「産地によるブランド化」であり、臓器提供の価値が「メイドインジャパン」の無戸籍児童に置かれるという戦略。もう、ヤバすぎる。

あっけない結末

パブロのおかげで人間味を取り戻したコシモが処刑寸前の児童と矢鈴を救い、バルミロらを殲滅するシーンは意外とあっけないが、命を落としてまでコシモを救い出したパブロの献身、さらに、ふつうに逃げ切れるはずだったのに薬物中毒のためコシモらを危険な目に遭わせた矢鈴の狂気は印象的だった。

最後に

エピローグが秀逸。沖縄に渡り、パブロの娘に不躾に大金を渡すコシモ。最後の最後まで不器用で学のない大男の行為に好感が持てた。ハードボイルドならではの「死」の結末でなくホッとした。敢えて注文があるとすると、アステカ帝国の信仰の件が長すぎたこと。実際のところだいぶん飛ばし読みをしたが、それで迷子になることはなかった。これからの読者に最も伝えたい点だ。


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