「史上最強の哲学入門」で哲学者たちの論点と足跡を学ぶ
西洋哲学の入門書.強い哲学者が「オレはこう考える!」と論じれば,「そうではない!正しいのはこちらだ!」と反論する強い哲学者が現れる.紀元前から人間の一部はそのようにして真理を追究してきた.
本書は,真理,国家,神様,存在の4つのテーマについて,真理を探究し,新しい考え方(世界の見方)を提示してきた哲学者32名を,哲学界でバトルを繰り広げる闘士になぞらえて得意技と共に紹介している.後世の哲学者が有利に決まっているだろと思うが,それはともかく,わかりやすく論点が整理されており,どのような問いが発せられ,それに対してどのような答えが用意され,否定されてきたか,現代に至るまでの議論の変遷を概観することができる.
本書「史上最強の哲学入門」を読むずっと前に,この東洋思想版「史上最強の哲学入門 東洋の哲人たち」を読んだ.それが面白かったので,今回,西洋哲学版も読んでみた.
とにかく,論点が整理されており,誰がどのような問いを発し,その問いに誰がどう答えたかを,とても平易に解説してくれている.ニーチェのツァラトゥストラを読んだところで,私ごときには何が言いたいのかを理解できないわけで,要点をわかった気にさせてくれるのは有り難い.
例えば,第一ラウンドの「真理」について,本書の解説のうち近代哲学の部分をさらに圧縮しまくると,こんな感じになるだろう.
ありとあらゆるものを疑って「我思う,ゆえに我あり」に辿り着いたデカルトも,神は疑わなかった.その神まで疑ったヒュームがイギリス経験論を完成させた.だが,疑いまくっただけでは前に進めない.ヒュームの懐疑に立ち向かい,「真理とは人間によって規定されるものである」,つまり無条件の普遍的真理というものは人間にとって意味を持たず,人間にとっての真理があることを明らかにしたのがカントだった.では,その真理にはどのようにして到達できるのか.到達できなければ絵に描いた餅だ.ヘーゲルは弁証法によって真理に到達できるとした.ある真理と反真理とを闘わせて,より優れた真理を見出すという手続きを繰り返していけば,いずれ究極の真理に到達するというわけだ.しかし,いつになったら明らかになるかわからない真理なんて人間個人にはまったく役に立たない.意味がない.そうキルケゴールは噛み付いた.だったら,自分の手で究極の真理を求めようじゃないかと立ち上がったのがサルトルだ.「人間は自由の刑に処せられている」と述べつつ,だからこそ人間は人類を真理に至らしめる歴史に参加すべきだとした.そこには,あるひとつの真理に向かって進展するという歴史観がある.そんな歴史観は西洋の傲慢でしかないと厳しく批判したのが人類学者でもあるレヴィ・ストロースだ.
なんだか,わかった気になれた.
真理のほか,国家,神様,存在,について,哲学界での最近2500年くらいの議論の流れを追えるようになっている.名前くらいは知っている有名な哲学者の何が凄いのかをきちんと説明してくれているので,彼らの凄さを認識できる.押さえておくべきポイントがわかる.これらは,哲学素人にとって,とても有り難い.面白く読めた.
目次
第一ラウンド 真理の『真理』―絶対的な真理なんてホントウにあるの?
第二ラウンド 国家の『真理』―僕たちはどうして働かなきゃいけないの?
第三ラウンド 神様の『真理』―神は死んだってどういうこと?
第四ラウンド 存在の『真理』―存在するってどういうこと?
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