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大学・大学院・教育・研究のあれこれ

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2020年5月の記事一覧

学生/技術者/研究者向けアドバイス一覧(随時更新)

noteに書き連ねてきた記事の中から,私自身が有用だと思うアドバイスらしきものを集めて,ここに整理しておきます. 進学・キャリアのアドバイス大学新入生に伝えた(い)こと 大学の講義は面白くない? 機会を見送る人と活かす人 大学院入試に向けた活動指針 ー 他大学も視野に 博士課程進学という決断:青年の大成 - 学生に読んでおいて欲しい本 人生最適化の目的関数と制約条件 勉強のアドバイス20歳代が学問する絶好機 大学や大学院で身に付けておきたい力 素直に学ぶこと

プレゼンテーション・アドバイス(1):プレゼンが成否をわける

プレゼンテーションが上手でないばかりに損をしている人は少なくありません.伝えたいことが伝わらない.うまく説明できない.研究成果の凄さが伝わらない.提案プロジェクトの重要性が伝わらない.自分のアイディアの方が優れているのに採用されない.就職活動がうまくいかない.様々な場面で,プレゼンテーション能力が結果を左右します.だから,プレゼン能力を高めておくとお徳です. ここでは,学会や講演会での発表を念頭において,良いプレゼンテーションをするために知っておくべきことや実行しておくべき

素直に学ぶことから始めよう

「守破離」という言葉を聞いたことがありますか. 守破離とは,最初は基本を忠実に守り,次にそれを応用して,最後は型から離れるという芸道の修得過程を表していますが,その原典は明らかではないそうです.能楽における,世阿弥の「風姿花伝」にある序破急が元とされています.風姿花伝では,序破急は修得過程ではなく,能の構成をさします. その後,茶道において,千利休が「利休道歌」にて歌を詠み,川上不白が「茶話集」や「不白筆記」に記したとされます.利休道歌には,「規矩作法 守り尽くして 破る

大学の講義は面白くない?

2020年度は,新型コロナウイルスの影響で,大学の講義は遠隔講義になった.遠隔講義と言っても方法は様々で,講義や教員によって格差はとても大きくなっているのだろう.だからこそ,こんな講義を受けるために高い授業料を払っているのではないと怒る学生がいるのだと思う. ちなみに,私の遠隔講義は↓みたいな感じです. ようやく全国で緊急事態宣言が解除されたが,先行きは不透明だ.ドタバタで始まった2020年度も,5月が終わり(残すところ週末のみ),既に2ヵ月が過ぎた.私が学生だった頃と比

新入生向け講義の質疑応答番外編:サイクリングはいいぞ!

本日の講義「自然現象と数学」の冒頭,緊急事態宣言解除に伴う生活の変化について触れ,自分自身の週末サイクリングについて紹介した.この話題についても多くの質問とコメントを学生からもらったので,質疑応答番外編としてまとめておく. 以下,Qは質問,Cはコメント,Aは私からの回答である.質問やコメントの横に書いてある数字は書き込まれた時間で,質問とコメントの収集には「遠隔講義で学生の反応をリアルタイムに把握する」でも紹介した"Comment Screen"を使っている. C. 安納

行列式 |A|=ad-bc の幾何学的意味

大学で「線形代数」を受講すると,いきなり行列式というのが登場する.2次正方行列 A の行列式は det(A) = ad-bc だと教わる.あるいは行列式を |A| と書くこともある.書き方はともかく,A の逆行列を求めるときに ad-bc が再登場するので,とりあえず覚える.でも,行列式って何だ? 今回は,行列式の幾何学的意味を簡単にまとめておこう.以前書いた記事「フーリエ級数展開は関数の座標を決めている」でも強調したように,数学の勉強をするとき,イメージを持って理解するこ

遠隔講義で学生の反応をリアルタイムに把握する

新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため,大学でも対面講義ができなくなり,遠隔講義(オンライン講義)が主となった.そうすると,ハーバード大学とMITが立ち上げ,京都大学も参画している"edX"もそうだが,有名大学の人気講義をオンラインで受講できる今,洗練されていない教員の講義を視聴させられることに不満を感じる学生がいても不思議ではない. 今,講義間格差,教員間格差は凄まじく大きくなっている.対面講義をしていた頃には,それほど格差を感じる機会もなかったかもしれないが,遠隔講義(

20歳代が学問する絶好機

講義で学生に「今から10年間が懸命に勉強するときだぞ!」と言っている.実際,大学で研究をしてきた私にとって,その研究を支える基礎は,自分が大学院生や助手(現在の助教)の頃に勉強したことだ.それなしで今はない.(情けないことに大学4年間は勉強していなかった) 当時のことは,以下の記事にまとめてあるので,読んでみて欲しい. 高校生や大学生,そして大学院生にとって,なぜ,今からが懸命に勉強するのに絶好の時期なのか.私の経験上そうだというだけでは頼りない.サンプルが1個(N=1)

フーリエ級数展開は関数の座標を決めている

ほとんどの工学部の学生はフーリエ級数展開を学ぶと思うが,これが何をしているかということを,イメージを持って理解しておいて欲しい.というのも,何の因果か,大学3回生を対象にした,フーリエ級数展開やフーリエ変換の講義を担当しているからだ.これらに限らず,数学を勉強するときは,イメージを持つことが大切だ.式変形ができても,そのイメージを持てていないと,実際に使うのは難しい. あなたが今いる場所はx,y,zの3つの座標 (x, y, z) で表現できる.この3つの座標を使うと,他の

教師の責務をマックス・ウェーバーが語った「職業としての学問」

1919年,マックス・ウェーバーの晩年の講演をまとめたものであるが,100年後の今なお色褪せていないと感じられる.ただ,正直なところ,読みにくい.文章の読解しにくさに面食らう.どうして,これほどまでに複雑に書くのかと.それでも,学問を職業とする人の心構えや学問の存在意義を明らかにしようとする本書は一読に値する. マックス・ウェーバー,「職業としての学問」,岩波書店,1980 生計を立てるための職業としての学問という観点からは,大学や研究所の人事制度について言及がある.第一

線形代数で検索結果を向上させるPageRank

線形代数を知っていれば,できることが圧倒的に増える.やりたいことができる可能性が高くなる.最高だ. 前回の記事はそう締めくくった.「研究とベンチャーと数学と」(その1,2,3)で,製造プロセス向けの異常検出技術を医療分野に転用することで,てんかん発作予知を実現したこと,その技術は線形代数を使ってこそ可能になったことを述べた.そんな記事を書いたのは,大学新入生が線形代数を勉強するモチベーションをあげるためだ. 折角なので,線形代数が威力を発揮した超有名な例を紹介しておこう.

研究とベンチャーと数学と(その3)

大学新入生に伝えたいのは,講義が面白くなくても線形代数は重要であるということだ.前回,製造業で異常検出に使われている多変量統計的プロセス管理(MSPC)を転用して,てんかん発作を事前に予知できることを示した.今回は,これらの研究にとって線形代数がどれほど大切かを見ていこう. その前に,前回までの記事を読んでいない人は,「研究とベンチャーと数学と(その1)」「研究とベンチャーと数学と(その2)」をどうぞ. 多変量統計的プロセス管理(MSPC) 前回説明したとおり,(古典的な

研究とベンチャーと数学と(その2)

製造プロセス向けの仮想計測・異常検出・異常診断・制御・最適化などの技術がヒトに対しても適用可能であり,それによって医療・ヘルスケアサービスを創出することができる.そのような研究の具体例と,さらにその製品化による社会実装を目指したベンチャー起業について書いてみる. この記事は,「研究とベンチャーと数学と(その1)」の続きであり,研究紹介の後に,線形代数などの数学を修得しておくことの重要性を示す,大学生の勉強モチベーション向上を目指す作戦の一部である. 「ヤシマ作戦」みたいな

研究とベンチャーと数学と(その1)

先日,自分が担当している京大新入生向けの講義に関して,「講義「自然現象と数学」への学生コメント」という記事を書いたところ,自分もこの講義を受けたいなど,色々と反響があった.さらに,線形代数を勉強するモチベーションが上がったという受講生のコメントを見て,自分も線形代数のモチベーションを上げて欲しいという声もあった.そこで,講義で話したことの一部をここで紹介することにした. プロセスシステム工学私自身は,化学工学専攻の出身だ.化学工学とは,石油産業や化学産業の製造設備を設計した