犬になつかれる方法


 娘が放課後デイ・サービスから帰ってくる夕方、送迎車を迎えに、アパートの前の駐車場に出る。息子も一緒に姉を迎え、二人抱き合う光景が日常になっていた。そのまま家のすぐ近くにある大きな公園に行って遊ぶ。春休み中の多くをそんな風にして過ごした。

 その時間帯と被って犬の散歩をしている御婦人がいて、人懐っこいキャバリア犬が馴染みの子どもたちと戯れていた。うちの子らもそこに加わり、四歳の息子はずっと私か姉越しにしか近寄れなかったのが、姉と一緒に触れるまでになってきた。


 コロというその犬と子どもらが触れ合っている最中、私は近くのベンチに座り、なるべく静観するようにしていた。なぜかというと、


 チラッ(コロが私を見ている)

 ジー(コロが私を見つめている)

 ハッハッハ(コロが私に向かって歩き出す)


「パパにばかりコロが行ってずるーい!」
 そんな流れで娘が泣き出すはめになったりするからだ。

 私は餌を持っているわけではないし、犬が好むような体臭の持ち主でも、多分ない。
 しかし昔から犬猫にはよく好かれた。
 初対面の大型犬が私を抱き締めるようにして、口の中に舌を入れられたこともある。
 飼い主さんが「他の人にはなつかないのに……」と絶句していた光景が忘れられない。

「パパ、どうして犬や猫に触れるのか教えてください! 弟子にしてください!」
 と娘に懇願された。確かに私も昔から不思議に思っていたので、「犬になつかれやすい人の特徴」といったことを調べてみた。()内は自分について。

・物静かな人(あんまりキビキビ動かない)
・大声を出さない(ボソボソ喋り)
・自分から触りにいかない(触られるのが苦手な犬もいるので、寄ってくる犬にだけ触るようにしている)
・上から覆いかぶさるように近づかない(基本姿勢を低くする)
・いきなり触るのではなく、手のひらを出して自分の匂いを嗅がせる(この通りにしていた)
・犬の気持ちを考えられる人(疲れていたり眠そうにしていたり帰りたそうにしていたら離れる)

「犬になつかれる人の特徴」を読んでいるのに、自分のことを書かれているように感じた。

 子どもと遊ぶのを楽しんでる犬もいるけれど、動きを予測出来ない子が近くにいると、悪気はなくても尻尾を踏まれそうで怖がる犬も多いだろう。

 これは犬に限った話でもない。
 初対面で俊敏に動きながら大声を発し、上から覆いかぶさるように近付いてきて遠慮なく体に触れてくるような人間がいたら、警戒どころか警察沙汰になりかねない。

 人との距離感の掴み方が苦手という方は、一度自分の行動や人との接し方を客観的に見て欲しい。

・常に踊りながら歩いていませんか?
・あなたは超厚底靴や竹馬やセグウェイに乗って移動していませんか?
・常に大声で怒鳴り散らしていませんか?
・人を見たら触りに行っていませんか?
・相手が怖がっているのも気にせずがんがん近付いていませんか?
・TPOという言葉を知っていますか?
・よく通報されていませんか?

 上記のことに気をつけるだけでも、犬になつかれる人になるかも。

 常にマスクをしているから、以前のように口をペロペロやられることはなくなった。

 最初に書いた日の翌日、娘は私が言ったことを忠実に守って、低姿勢で穏やかにコロを待ち、手のひらを差し出していた。私は前日より離れたベンチに座った。


 チラッ(コロが私を見ている)

 ジー(コロが私を見つめている)

 ハッハッハ(コロが私に向かって歩き出す)


 また娘が泣き出してしまった。


(了)




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泥辺五郎
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