夏を彩る、踊る枝豆
今まさに枝豆の美味しい季節です。
枝豆は6月から徐々に出回り始め、7〜8月にかけて最盛期を迎えます。
冷凍ものも多く出回っているので、一年通して食べることができますが、やはり旬の時期に採れた枝豆というのは、ひと味もふた味も違います。
まず何より香りが違います。
新鮮な枝豆は、夏の暑さをほんの少しだけ和らげてくれる、そよ風のように爽やかな香りがします。
もちろん味だって全然違います。
旬の枝豆はコクがあって、噛めば噛むほどに甘味が出てくるのです。
そんな枝豆は手軽なうえにヘルシーなので、あと一品おかずが欲しい時や、ちょっと小腹がすいた時のおやつなんかにとっても便利です。
さらに枝豆のクセのない味わいはどんなお酒にもよく合うので、お酒のおつまみとしても不動のポジションを確立しています。
ビールとの相性はもちろんのこと、ハイボールや日本酒、ワインに至るまで、ありとあらゆるお酒に寄り添うことができる万能選手なのです。
夕飯のおかずにするにしろ、晩酌のおつまみにするにしろ、やはり旬の枝豆はシンプルな塩茹でに限ります。
料理人の私が言うのもなんですが、旬の食材はそのままでも十分に美味しいので、あれこれ手を加える必要なんてないのです。
枝豆の茹で加減は人それぞれ好みがあると思いますが、私はホックリとした中にもコリっとした食感が残るくらいの茹で加減が好きです。
では、実際に何分くらい茹でたらそれくらいの食感になるのでしょうか。
実のところ、それに関しては確かなことは何も言えません。
というのも枝豆自体の個体差もありますし、なにより私は枝豆を茹でる時にタイマーを使わないからです。
私は以前ある農家さんに枝豆の茹で方を教わったのですが、その茹で方というのが、
「美味しくなったら枝豆が勝手に開きますから、そうしたらちょうどよい茹で加減ですよ」
と言うものでした。
ずいぶん適当な茹で方のように思えますが、これが実際にやってみると本当にちょうどよい茹で加減だったので、それからというもの、私はタイマーを使わなくなったのです。
では実際に作っていきたいと思います。
まずは大きな鍋にたっぷりとお湯を沸かします。
お湯を沸かしている間に、枝豆をサッと水で洗い、塩揉みをして産毛を取り除いておきます。
お湯が沸いたら下味用の塩をぱらりと入れて、そこに枝豆を投入します。
すると枝豆がすぐに鮮やかな黄緑色に変わり、太陽の光をたっぷり浴びて育ったことを証明するかのような、甘い香りを漂わせ始めます。
その香りを堪能しながら鍋の中をじっくりと観察していくと、次第に枝豆が自ずから開き始めるのです。
開くとは言っても、あさりやハマグリのように派手にパカッと開くわけではありません。
枝豆はあくまで奥ゆかしく、人知れずひっそりと莢を開くので、目を離さずにじっくりと鍋の中を観察している必要があるのです。
莢の開いた枝豆を5〜7個くらい見つけたら、素早くザルにあけて水気を切ります。
そして熱いうちに塩を全体にふりかけて、味を馴染ませたら完成です。
こうして茹でた枝豆は味もさることながら、なによりも食感が絶妙です。
ホックリとした中にもコリっとした食感があって、まるで口の中で枝豆が踊っているかのように感じられます。
「ホックリ、コリッ、ホックリ、コリッ」
その心地よいリズムに合わせて、ゴクリ、ゴクリと冷えたビールを飲み進めていくうちに、いつのまにかこちらまで楽しい気持ちになってくるのです。
枝豆には「必ず訪れる幸福」という花言葉がつけられています。
夏の蒸し暑い夜に、よく冷えたビールと、茹でた枝豆。
誰にでも確実に訪れる、ささやかな幸せです。