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のたうち回る煮えた人参

「人参は煮えた」

フランスのことわざです。「万事休す」といった意味合いで、「もうどしょうもない」って時に使われる言葉だそうです。

この言葉に初めて出会ったのは、「ザ・ウォーク」という映画を見た時でした。

主人公のフィリップ・プティが、ニューヨークにあるワールドトレードセンタービルのツインタワーで綱渡りをするという、前代未聞のノンフィクション映画です。
仲間達と計画を遂行する時のハラハラ感、ビルの110階、高さ441メートルで行われるゲリラ綱渡りのドキドキ感は見る者の心を鷲掴みにします。

そんな映画の中で、度々出てくる印象的なセリフが、「人参は煮えた」でした。

いったいフィリップ・プティは、なぜ命を賭けてまで綱渡りをしようと思ったのか。
高所恐怖症の私には全く理解ができません。

私は最近、長いエスカレーターに乗るだけでも怖くて、手すりに捕まってないと足がすくんでしまう程です。

そもそも高所恐怖症というのは、「落ちたらどうしようと」と過剰に想像してしまうことや、過去の怖い経験などに原因があるそうです。

では、なぜ私は高所恐怖症になってしまったのでしょうか。
過去になにかあったに違いないと思い、幼少期を振り返ってみたところ、
思い当たる出来事が一つだけ見つかりました。


あれは小学校低学年の頃でした。休み時間にジャングルジムで友達と遊んでいた時です。

ジャングルジムの一番上に登り、得意げに手放しをしていた友達が足を踏み外し、股間を強打しながら落ちていったのです。
股を押さえ、のたうち回る友達の姿を前に、私はどうしてよいのかわからずに、唖然と立ち尽くしていたのを覚えています。

想像を絶するであろうその痛みを想像するだけで、私の股間も「ズキンッ、ズキンッ」と痛みました。
今でもその光景を思い出すと、私の股間は縮み上がり、ぞわぞわとした謎の違和感にさいなまれるのです。

あの完全に、人参が煮えた友達の姿は、幼少期の私には刺激が強過ぎたようです。




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