イタリアチーズとクローゼット
イタリアに「ウブリアーコ」というチーズがあります。
表面は渋みのある紫色に染まっていて、ナイフを入れると中からは、チーズ本来の色白の肌が現れます。そのコントラストがとても綺麗で、辺りに漂うチーズの香気と相まって、妖艶ささえ感じさせます。
「酔っ払いのチーズ」とも呼ばれるこのチーズは、第一次世界大戦中に、当時貴重であったチーズを略奪されないように、ワインの樽の中や葡萄の搾りかすの中に隠したのが始まりだと言われています。
また、同じくイタリアのチーズで、「フォッサ」というチーズがあります。
「フォッサ」とは穴という意味で、その名の通り、チーズを布で包み穴の中で熟成させる珍しいチーズです。こちらも、ヨーロッパで戦争が絶えなかった15世紀頃、略奪者からチーズを守るため、穴の中に隠したのが始まりだと言われています。
どちらも貴重な食料を、略奪者から守るための工夫から生まれたチーズなのです。
私もまた、実家に住んでいた頃、略奪者に苦しめられていました。
仕事終わりにお風呂あがり用の缶ビールを買って帰り、冷蔵庫に入れて冷しておくと、私がお風呂に入っている隙を狙って、姉がビールを略奪することが多発したのです。
姉にいじめられて育った私は、大人になってからも文句の一言も言えませんでした。
いつしか私はビールを二本買って帰るようになっていました。
近頃もまた、略奪者に悩まされています。
家族が寝静まった後に、映画を見ながら食べようと思っていたポテチを、私が仕事に行ってる隙を狙って、娘が盗み食いをするのです。
かわいい娘に嫌われたくない私は文句の一言も言えません。
私はどうやら略奪に苦しむ運命のようです。
ある日、洗濯物をしまっていたら、妻のクローゼットの中から
「チョコパイ パーティーパック 9個入り」を発見しました。
娘に食べられないように隠していたそうです。
どうやら人間のやることは、15世紀から変わっていないようですね。