【 エッセイ 】月がキレイですね
「 キレイな満月だ… 」
ある夜のこと。
何やら窓の外から光が差し込んでいた。
夜空を見上げてみれば
まるで絵に描いたような満月が浮かんでいた。
思わず言葉を漏らしてしまった。
というか、勝手に口が動いていたようだ。
少し気の早いお月見でも
したくなってしまうような満月。
自分だけが独り占めをするのは
もったいなすぎる。
誰かにもこの気持ちを共有したい。
あぁ、“あの人” に見てもらいたいなぁ。
◇◇
かの有名な小説家・夏目漱石が
“I LOVE YOU” の訳語として
「月が綺麗ですね」と言ったらしい。
漱石は英語教師をしており
教え子が「我、君を愛す」と訳したので
日本人はそんなことを言わないから「月がきれいですね」
とでも訳しなさいと言ったそうだ。
“愛している” という
直接的な言葉は日本人には合わない。
文学者の漱石ならではの表現だ。
なんとまぁ、奥ゆかしいというか…。
美しい満月が夜空に浮かんでいる日には
“あの人” にも見てもらいたくなる。
LINEで「月がきれいですね」なんて。
ちょっとキザかな(笑)
でも、漱石の気持ちが分かるような気がするなぁ。
“I LOVE YOU” は、なんだか無粋。
直接的に言わない美しさ。
これが日本の心なんだろうなぁ。
明治の時を生きた人々がうらやましい。
きっと “あの人” も同じ月を見てくれているだろう。
ちなみに「月がきれいですね」に対する
返答の仕方というのもあるらしい。
「月はずっときれいでしたよ」
ずっとあなたが好きでしたという意味だ。
そうだね、月はずっときれいだったよね。
俺はなにを当然のことを言っているんだろう(笑)
ピコン
LINEの通知音が鳴った。
「なに急に、キモっ」
※この物語はフィクションです
サポートしてくれる神がいるとかなんとか…。