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うわさは「娯楽」

あふれる書籍や映像作品の中から、学びや気づきがほしい。そんな方のため、元県紙記者の木暮ライが、おすすめのコンテンツをプロット形式で紹介しています。

■ うわさが5人を殺したのか?―山口連続殺人放火事件/高橋ユキ作「つけびの村」

2019年9月25日に出版されたノンフィクション作品です。傍聴ライターとして活動する高橋ユキさんによるnoteのルポ記事を書籍化したものでした。


《 山口連続殺人放火事件とは》
Uターンしてきた村人が、ほかの村人たちに村八分された挙句、恨みを抱いて犯行声明を掲げたのちに起こした連続殺人事件。村人5人が犠牲になった。

 事件から3年後、ある雑誌の編集者が「山口連続殺人事件」について夜這い(強姦)の事実を取材して書いてみないか、と声をかけてくれたのがきっかけで取材を開始。

 事件現場の聞き込みと登記をもとに実行犯とされる男の生い立ちに始まり、事件を起こすに至った経緯、周辺人物や被害者遺族、そして犯人への取材を経て、高橋さんが自分なりに犯人の置かれた状況や事件の動機を事件ノンフィクションの定石に従って取材しようとした。

 しかし、村人の話を聞くうちに、村八分の真偽が確認できないどころか張り紙も犯行声明ではなく、村で起こった不穏な出来事に合わせて貼られたものだった。定石が打てない焦りと同時に村のうわさを追いかけたくなったという。うわさとは何か。こうして記事の主人公が決まった。主人公の名は、保見光成。名前はのちに、ワタルと改名した。

まるで、村を歩けば羽虫がいたるところから飛んできてまとわりつくように、このUターンがまた新たなうわさを生んだことがすべての始まりだった。

「つけびの村」より

ワタルの自宅向かいの家で開かれる「コープの寄り合い」はうわさの発信源だった。
ワタルは妄想性障害を患う。
村八分にされていると思い込むようになる。
取材を重ねたのち、これは思い込みではなく、ワタルが戻ってくる前から村のうわさが漂い続け、またワタルが「嫌がらせ」受けていると感じても致し方ないような出来事が起こっていた。

それは、ワタルの父・友一の時代から影響を受けていた。
ワタルは両親を看取ったのちに、ひとり暮らしとなったワタルは、その空気の中で孤立を深め、川崎で稼いだ1千万円をすべてとかし、「経済的困窮」でますますワタルを追い詰めた。

うわさは「娯楽」。人は戒めながらも心のどこかで興奮している。

SNSでは、村八分にされていたかわいそうな村人が復讐したと思い込んでいいる人たちによって、被害者や村人を非難する。
そんな心ない言葉が全世界に今も拡散されているのだ。

これは、特定の村で起きた特殊な事件ではなく、地域、職場、ネットの仮想空間など、すべてのコミュニティで起こりうる悲劇である。

そんな世の中に私たちは生きているのだと考えるとこの世はやはり地獄なのかもしれない。うわさに悩むすべての人におすすめしたい書籍である。

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