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クモ系の研究(自著・共著)

 インターネット上で参照可能な、当方によるクモに関連した出版済みの読み物を、ご紹介いたします。


1.「長崎市で採集された雌ジグモ毒液のGC/MS測定とワスレナグモ(クモ目:ジグモ科)住居の発見」, 長崎県生物学会誌, (85), 39-41 (2019).

2019年7月16日、長崎大学教育学部前の路上でジグモ(Atypus karschii)の雌(牙を含めた体長が25 mm)を採集した。その牙からは、毒素と思われる無色の液体が分泌された。熱分解-GC/MS測定の結果、分泌された液体には脂肪族化合物や芳香族化合物などの成分が含まれていた。また、近くで、準絶滅危惧種であるワスレナグモ(Calommata signata)(クモ目:ジグモ科)の巣穴も発見された。

2.「長崎における秋から冬にかけてのクモの生態とチュウガタシロカネグモのUV-vis反射スペクトル測定」,  日本科学教育学会研究会研究報告, 34(7), 33-38 (2020).

長崎大学のキャンパスで秋から冬にかけて容易に観察できた、体の一部が白色であるナガコガネグモ(Argiope bruennichi)、アズチグモ(Thomisus labefactus)、ミナミノシマゴミグモ(Cyclosa confusa)、アダンソンハエトリ(Hasarius adansoni)、銀色であるシロカネイソウロウグモ(Argyrodes bonadea)およびチュウガタシロカネグモ(Leucauge blanda)について示した。虫の観察数が減少し、図鑑では成体が出現するとされる期間を外れた冬の時期にあっても野外での生息が確認できたクモには、体表の一部が白色や銀色のものが含まれていた。

3.“Predation of a large orb-web spider by a crab spider, Thomisus labefactus (Araenae: Thomisidae)”, Serket - The Arachnological Bulletin of the Middle East and North Africa, 17(2), 139-142 (2020).

本研究では、カニグモ科の一種であるアズチグモ(Thomisus labefactus)の雌成体が、網の中央にいたナガコガネグモ(Argiope bruennichi)の雌成体を捕食したことを、報告した。私の知る限り、大型の造網性クモであるナガコガネグモが、カニグモによって網に侵入されて捕食されるケースは、従来、知られてこなかった。一般的に待ち伏せ型捕食者であると考えられているアズチグモは、大型の造網性クモであるナガコガネグモを積極的に狩り、網の中心で獲物を攻撃することが、明らかとなった。

4.「ジョロウグモによるカメムシの捕食およびその死骸が設置された網の化学生態学的一考察」, 長崎県生物学会誌, (86), 20-23 (2020).

ジョロウグモTrichonephila clavata(クモ目:ジョロウグモ科)の雌成体は、糸で獲物を巻くことなく、アオカメムシ(Plautia stali)を捕獲していた。カメムシは不快な臭いで身を守る。ジョロウグモが糸を巻かずにカメムシを捕食したのは、その臭いを揮発させるためかもしれない。ジョロウグモ属の一種であるN. edulisは、死んだ獲物や葉などの腐ったものをバリアー網に設置し、臭いで獲物となる昆虫を引き寄せ、同じくジョロウグモ属の一種であるN. clavipesは、カメムシの死骸を置いて、ハエを引き寄せる。ジョロウグモは、餌を食べた後のカメムシを網上に設置することから、ハエなどの獲物を誘うことができるものと考えられる。

5.「チュウガタシロカネグモの網にいたハエ,イトカメムシ,およびゴミグモの一種の網にいたアリ」, 長崎県生物学会誌, (86), 35-36 (2020).

アシナガグモ科のチュウガタシロカネグモ(Leucauge blanda)(クモ目:アシナガグモ科)と 、ゴミグモ属の一種(クモ目:コガネグモ科)の2種類のクモの網で、ハエ、カメムシおよびアリが捕獲された事例を報告する。チュウガタシロカネグモの網には、ヒトテンツヤホソバエ(Sepsis monostigma)(ハエ目:ツヤホソバエ科)と思われる昆虫が捕獲されていた。チュウガタシロカネグモの別の網には、イトカメムシ(Yemma exilis)(カメムシ亜目:イトカメムシ科)と思われる昆虫が留まっていた。ゴミグモ属の一種のデトリタスには、ヒメナガアメイロアリ(Paratrechina longicornis)(ハチ目:アリ科)と思われるアリ※がいた。

※ケブカアメイロアリ(Nylanderia amia)に訂正済み。Cf. 長崎県生物学会誌, (87), 22 (2020).

6.「造網性クモの野外観察において見出したトピックス」, 日本科学教育学会第44回年会論文集, 659-662 (2020).

簡単に観察でき、研究題材を豊富に提供してくれる造網性のクモを野外で観察したところ、クモの脱皮、網の形態、占座、および捕食に関して研究の題材になるかもしれない事例を見出した。図鑑や文献にはない生態を見出すことができた一方で、きちんとした研究へと深めていくには、必要に応じて飼育下での観察と組み合わせるなどのさまざまな工夫が必要になるであろうとも感じられた。

7.“A hornet is fed upon by a spider, Argiope amoena (Araneae: Araneidae)”, Serket - The Arachnological Bulletin of the Middle East and North Africa, 17(3), 188-193 (2020).

コガネグモ(Argiope amoena)が、コガタスズメバチ(Vespa analis insularis)をラッピングして、捕食していた。コガネグモが採餌する餌の約半分は、ミツバチやアリを中心としたハチ目であることが、以前、報告されている。しかし、私の知る限り、昆虫やクモを捕食することで知られる真社会性のハチの中で最大であるスズメバチ科の一種がコガネグモに捕食されるケースは、科学的な文献には、ほとんど記載されていない。一方で、スズメバチ科がコガネグモ属のクモを襲い、あるいは巣から獲物を盗んだ事例は、いくつか報告されている。

8."UV-Vis reflectance in East Asian crab spider, Thomisus labefactus (Araneae: Thomisidae)",  Reports of the Graduate School of Engineering, Nagasaki University, 51(96), 55-59 (2021).

紫外・可視(UV-Vis)反射分光法は,材料や生物の色彩を評価する有益なツールの一つである.カニグモは花の上で獲物を待ち伏せする捕食者であり,擬態および/あるいは餌誘引における文脈で,体の色彩に焦点が当てられてきた.本研究では,東アジアに生息するカニグモ科の一種であるアズチグモ(Thomisus labefactus)では最初となるUV-Vis 反射スペクトルの測定から,紫外線反射を欠いているヨーロッパ産の種とは異なり,相当量の紫外線を反射するオーストラリア産のカニグモ科の一種であるThomisus spectabilisと同程度の強さで紫外線と可視光を反射することが示される.

9.「真正クモ類(クモ綱:クモ目)の性フェロモン,カイロモン,化学擬態および抗菌ペプチド」, くものいと, (54), 10-40 (2021).

本総説では、真正クモ類(クモ綱:クモ目)の化学生態学に焦点を当てる。クモの性フェロモン(接触性または風媒性のもの)は、わずか7から11種類しか確認されていない。これまでに、17種のクモが、獲物の探索や評価を容易にするカイロモンを持つことが、報告されている。また、アリのコロニーにおいて隠蔽や寄生をするための、好蟻性クモにおける化学擬態が観察されている。さらに、ナゲナワグモ類では、ターゲットの性フェロモンを模倣したカイロモンでガを誘引するという、攻撃的化学擬態が報告されている。加えて、クモを微生物から守る4種類の抗菌ペプチドも、報告されている。クモの化学的生態については、その多様性に鑑みると、まだ十分には理解されていないため、今後のさらなる研究が必要である。

10.「2020年に長崎県で見つけたクモの覚え書き」, くものいと, (54), 41-51 (2021).

本稿では、2020年に長崎で発見されたクモについて、いくつかの観察事例を報告する。徘徊性のエビグモ科の一種であるアサヒエビグモ(Philodromus subaureolus)の幼体、徘徊性のクモであるオトヒメグモ(Orthobula crucifera)の個体、アリに擬態しているクモであるヤガタアリグモ(Myrmarachne elongata)およびアリグモ(M. japonica)、ハエトリグモ科の一種の共食い、ヤマトガケジグモ(Badumna insignis)の雄個体、アシダカグモ(Heteropoda venatoria)の個体、ハナグモ(Ebrechtella tricuspidata)、コガネグモ(Argiope amoena)の雌成体による大型のセミであるクマゼミ(Cryptotympana facialis)の捕獲、アズチグモ(Thomisus labefactus)、キシノウエトタテグモ(Latouchia typica)の雄成体(準絶滅危惧種の一種)を見つけた。ナガコガネグモ(Argiope bruennichi)においては、冬に卵嚢を見つけたほか、縦方向にジグザグに並んだものと円盤状のものが組み合わされた白帯も見つけた。

11.“Consumption of a hornet by a wasp spider, Argiope bruennichi (Araneae: Araneidae)”, Serket - The Arachnological Bulletin of the Middle East and North Africa, 18(1), 67-69 (2021).

ナガコガネグモ(Argiope bruennichi)は,ジェネラリスト捕食者である.しかし,ナガコガネグモがスズメバチ属(Vespa spp.)を捕食する事例はほとんど知られていない.それどころか,スズメバチ属はナガコガネグモの天敵の一種でさえある.本研究では,ナガコガネグモがコガタスズメバチ(Vespa analis insularis)を糸で包んで捕食したという希少な事例観察を報告する.今回の発見は,造網性クモとスズメバチ属の捕食・被食関係に新たな知見を与える可能性がある.

12.「環境教育における間接体験のための教材候補としての希少なクモの毒素」, 令和3年度 日本理科教育学会北海道支部大会発表論文集, 32, 30 (2021).

ワスレナグモは準絶滅危惧種に選定されている希少なクモであり,どこにでもいるというクモではない。最近になって,ワスレナグモの毒素に関する研究が報告された。こうした内容を間接体験的に学習した後に,実際に準絶滅危惧種であるワスレナグモを探し,その生息環境を保全するなどの活動ができれば,これは環境教育や探究などの「直接体験」の一つとして,有意義なものとなるだろう。一方で,ワスレナグモの生息調査などの直接体験に必要となる準備や,実施のための体制を整えることには,大きな困難が伴うことも予想される。

13.「12 月まで長生きしたコガネグモおよびナガコガネグモ」, くものいと, (55), 15-16 (2022).

2021年、長崎で12月まで生存していたArgiope amoenaとA. bruennichi (Araneae: Araneidae) の個体が観察された。

14.“Intraguild predation on hornets and yellowjackets of vespine wasps by spiders, and vice versa”, D. Noguchi & K. Ikeda, Serket - The Arachnological Bulletin of the Middle East and North Africa, 18(3), 287-298 (2022).

クモだけでなく,スズメバチ属やクロスズメバチ属,ホオナガスズメバチ属を含むスズメバチ類(ハチ目:スズメバチ科:スズメバチ亜科)も節足動物食物網におけるトップ捕食者群に属している.このようにして,2つの群集の間では,潜在的な競争相手同士の殺し合いや捕食し合いを意味するギルド内捕食(IGP)が起きていると考えられる.しかし,その可能性についてはこれまで十分な調査が行われていなかった.本研究では,文献調査により,クモによるスズメバチ類(スズメバチ属,クロスズメバチ属,およびホオナガスズメバチ属の各属)の捕食が観察されていることを報告した.また,造網性の大型のクモであるコガネグモ属の一種Argiope spp.がオリエントスズメバチVespa orientalisを,コガネグモA. amoenaとナガコガネグモA. bruennichiがコガタスズメバチV. analisを捕食し,Phidippus audaxがクロスズメバチ属とホオナガスズメバチ属(ヨーロッパクロスズメバチVespula germanica, Dolichovespula maculateおよびD. arenaria)を,穴居性のクモPorrhothele antipodianaがヨーロッパクロスズメバチを捕食している他,コガネグモ属の一種A. aurantiaとA. floridaがクロスズメバチ属の一種Vl. squamosaを捕獲し,Phoneutria boliviensisはクロスズメバチ属の一種Vespula sp.を捕食していた.一方,確かな種名を記述した10件の文献から,スズメバチ類がクモを捕食している事例が20件見つかった.このことから,スズメバチ類とクモのIGPは対称的であることが示唆された.また,スズメバチ類による労働寄生,スズメバチ類によるクモの巣からの脱出,クモとスズメバチ類による殺し合いの観察も知られている.クモはスズメバチ類の餌であると同時に捕食者でもあるが,対称的なIGPとしての餌-捕食関係の相互作用を定量的に明らかにするためには,さらなる研究が必要である.

謝辞

 Serket - The Arachnological Bulletin of the Middle East and North Africa、くものいと、日本科学教育学会研究会研究報告、日本科学教育学会年会論文集、長崎県生物学会誌、長崎大学大学院工学研究科研究報告、日本理科教育学会北海道支部大会発表論文集 の各編集委員の先生方に、感謝いたします。

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