〝ひと〟を描く書き手に伝えたい。キャラしか勝たん。
『成瀬は天下を取りにいく』という小説が話題です。
10日に発表された「2024年 本屋大賞」でみごと大賞に輝くなど、合計〝14冠〟達成! 著者の宮島未奈先生は、これがデビュー作とのことです。
僕は半年前、書店でこの作品と出会いました。
表紙を見ると、西武ライオンズのユニフォームを着た女の子。
「もしかしてオリックスの描写もある?」なんて好奇心で手に取ると、帯にこう書いてあるわけです。
「かつてなく最高の主人公、現る!」
これは「買い」だと。ストーリー作りにおいて、キャラクターの重要性はこの記事でも書いた通り。
実際に読むと、確かに魅力的でした。主人公の成瀬あかりは、滋賀県大津市に住む女子中学生(途中から高校生)なのですが……、
と、人とは違う発想がある(ありふれていなくて〝個性的〟)。
僕が思うに、成瀬には「人生を如何に謳歌しまくるか」といった行動原理があります。なので、周りから「無駄」「無謀」と思われようと流されることなく、我が道を往きます。
〝自分軸〟〝モチベーション〟が明確なキャラクターは強いです。
あまりに真っ直ぐ、あまりに本気なものだから、周りのほうが影響されていく。こうした〝人を変える力〟〝動かす力〟があるのも、魅力のひとつ。
さらにこの作品を大きく飛躍させたのが、滋賀への〝郷土愛〟です。閉店間近の西武大津店に夏休みを捧げたり(ライオンズではなかった)、地元に特化したネタで漫才日本一に挑戦してみたり。
さらに、
市民憲章って! そんなの(失礼)覚えて真面目に実践しているとは笑
好感が持てる。次の言動が気になる。
これが〝最高の主人公〟というヤツなのか。〝ひと〟を描く書き手として、とても勉強になりました。
ところで。
その『成瀬は天下を取りにいく』が本屋大賞に選ばれた日に、とある作品が noteの街中に〝無料〟で振る舞われたのをご存知でしょうか(現在、キャンペーンは終了しています)。
『銀山町 妖精奇譚』
僕が敬愛する先輩 noter、福島太郎さんの新作です。
福島さんはこれまで地元・福島県を舞台にした作品をいくつも書いてきています。今回は、県の最西端に位置する小さな町を舞台に、公務員の主人公が町おこしに奮闘するお話。
プロローグからエピローグまで、98ページ。話がテンポよく進んでいき、おもしろかったです。最後の仕掛けには「そう来たか」と笑
さて、この作品を〝キャラクター〟という視点でレビューしてみます。
主人公の田中は、ヨソモノのワカモノ。最初は意欲もなくストーリーを牽引する力はありません。
そこで重要になってくるのが、主人公と行動を共にする存在です。
『銀山町~』においては、教育係の先輩・高橋。
高橋には成瀬のような発想力こそないのですが、仕事に対して確固たる〝自分軸〟を持っています。公務員としてのプロ意識が高いんです。そして、だからこそ主人公を〝変える力〟がある。〝動かす力〟がある。もちろん〝郷土愛〟もある。
このキャラクターをしっかり立てられたことが、作品の読みやすさに繋がっていると僕は思います。
さらに、その高橋が「凄い男」と心から認める、郷田というキャラクターもよかった。
豪胆で鮮烈。高橋にはない発想力があります。あえて個人的な意見を言わせてもらうなら、もっと活躍の場を与えてほしかった……。それくらい魅力的でした。
今作はこれまでより登場人物が多めなので、ひとりひとりに愛を注ぐ福島さんにとって、98ページは少なすぎたのかもしれません。
あなたは、どのキャラクターに魅かれるでしょうか。
『銀山町 妖精奇譚』
是非ご一読を!
最後に、銀山町のモデルとなった〝金山町の今〟をお楽しみください(↑)。