ゲーム屋人生へのレクイエム 47話
入社面接のために日本に帰る飛行機でビジネスクラスの席でエコノミークラスのごはんをたべたころのおはなし
「よーっしゃ面接じゃあ」
「気合入ってますね」
「おう。人生二度目の入社面接だから張り切ってね。ここで落ちたらあとがない。背水の陣だよ。本社に行って受付で人事担当のひとを呼んでもらってね。応接室へ通してもらって、もうすぐ人事部長が来ますのでお待ちくださいって言われて緊張しながら待ってたのよ。コンコンってドアをノックする音のあとに人事部長が入ってきて面接が始まって直後にドアがガチャって開いてさ、いかつい顔のガタイのいい人が入ってきて何も言わずに目の前に座ったのよ。この人どっかで見たことあるぞ、あっ!この人Rの社長だああ!ひえええ。こわーい」
「なんでそんなに怖がってるんですか?」
「この社長は業界では有名な武闘派の怖い人でね。怒りが頂点に達すると灰皿が飛んでくるという逸話もあってね。社長とは一度会ったことあるのよ。Rアメリカ子会社を辞めた友達がいたじゃない。ブローカーで働いてたときに登場したひと。38話だよ」
「はい。クビになる直接的な原因をつくったひとですね」
「そう。その昔、その友達の結婚式に呼ばれたときに同じテーブルに座ってたのがこちらの社長でさ。一言二言会話させてもらったのよ。社長が面接するなんて聞いてないから超ビビッてさ。脇にへんな汗をかき始めてさ。それで社長の質問がはじまったのよ」
「いろいろ聞かれたでしょう。学歴とか職歴とか」
「そんなのは一切聞かれなかった。質問は北米、中南米のゲーム市場についてだったのよ。どういうゲームが売れてるのか、どこの会社が元気がいいか、これからの市場についてどう思うか。矢継ぎ早に質問されてね。そんな質問されると思っていなかったから用意も準備もしてなかったけど知っている限りの回答をしたのよ。シャツの袖をまくって腕を組んで、うんうんってうなずいて。じゃ、って席を立って部屋を出そうになったので思わず、「あの面接結果ですが・・・」って聞いたら「採用だよ」って一言残して部屋を出ていかれたのよ」
「やりましたね!採用ですね!」
「あれ、面接終わりなのって面食らってさ。数秒遅れてから、採用だー!やったーってこころの中で三回転半ジャンプしたよ。そうしたら人事部長から社長が直接面接するなんて滅多に無い事ですよって言われてね。海外事業部長から君の事をいろいろ聞いてたみたいだよって。部長ありがとうございますって心の中で感謝したよ。よかった、とにかくよかった。これで夜逃げしなくていい。借金もしなくていい。ゲーム業界に正式に戻ることができるって喜びと安心で、緊張が緩んでね。面接の帰りに近くの立ち飲み屋でまだ日も高い時間から罪悪感を覚えながら祝杯をあげたよ」
「まあ、いいことあったし。いいじゃないですか。それからどうなったんですか?」
「一旦アメリカに戻って、借りてたアパートを引き払ったりしたよ」
「どうして引き払うんですか?住むところ無くなるじゃないですか?」
「ビザを取得するには何か月もかかるし、ビザを待つ間、本社のサービスセンターで研修することになったから、アメリカの住まいはしばらく必要なくなったからだよ。住んでないのに家賃払うのも勿体ないし」
「貯金もできますね。よかったですね。夜逃げの引っ越ししなくてすんで」
「夜逃げじゃなくて昼逃げだな」
続く
この物語はフィクションです。実在する人物、企業、団体とは一切関係ありません。