見出し画像

ゲーム屋人生へのレクイエム 13話

「アメリカへ行きたいか~~~!ニューヨークへ行きたいか~~~!」

「何ですか、突然に」

「アメリカ横断ウルトラクイズだよ」

「知らないです」

「アメリカの子会社に出向してた先輩にアメリカに出向する気はないかと聞かれてね」

「一体なにがあったんですか?」

「会社の寮で暮らしてた時にさ、すごく世話になった先輩がいたんだけど、その先輩がアメリカの子会社に出向しちゃったんだよね。3年くらい行ってたかな。でさ、その先輩が訳あって退職することになってね。後任がなかなか決まらなくってね。みんな尻込みしてね。先輩が帰国した時に一緒に呑んでたら俺にアメリカ行く気がないかって聞かれたのよ」

「何て返事したんですか?」

「いいっすよ。って返事した」

「軽いですね~」

「工場で働いてて何かこう先が見えてきたんだよね。このまま何年かしたら主任になって係長になって、よくて課長で定年迎える自分が見えちゃってさ。つまんない人生だなあって思ってさ。ストーリーが自分の予想どおりに進む3流ドラマをみているような感じでね。それで、アメリカ行きゃあ面白いこともあるんじゃないかって思ってさ。自分に何ができるかとか深く考えないまま返事したのよ」

「それでどうなったんですか?」

「周りはようやく後任が見つかった、よかったよかったって喜んでた。この人たちも深く考えていなかったと思うよ。俺に仕事が務まるのかとか誰も考えてなかったんじゃないかな。それから数週間後には3カ月の出張から行ってこいってことで何も準備もなくアメリカへ向かったのよ。到着した翌日にいきなり自分で車を運転して出社してね。ハンドル逆についてるし、道路は左右逆通行だし。とにかく出社したんだけど、困ったことに自分は何しにアメリカに来たのかわからない。何していいのかわからない。教えてくれる先輩もいないからね。仕方が無いから機械を生産している取引先工場に毎日行って機械の出荷検査とかしてたよ。とにかく言葉がさっぱりわからなくってさ参ったよ。入社試験では英語は白紙で提出したんだから。そのいきさつは5話ではなししたとおりだ。

はろー、さんきゅー、ぐっどばい。この程度しかしゃべれないから仕事にならない。仕事だけじゃない、生活もできない。マックへ行ってもメニューを指さすだけ。相手が何を言ってるのかさっぱりわからないからできる限り会話しないように逃げてたよ。逃げるは恥だが役に立つとかいうドラマがあったが、現実では逃げるだけでは何も解決しないね。アメリカで働きたいなら英語は絶対に避けて通れない。こんなことなら学校でまじめに英語授業を受けておけばよかったと思ったよ。英語の先生に一生英語なんて使わないから勉強しませんって言ったことがあったんだけど、撤回して深くお詫び申し上げますって謝罪したくなったよ」

「国会議員みたいですね」

「そうね。すぐに記憶なくなるし」

続く
*この物語はフィクションです。実在する人物、企業、団体とは一切関係ありません。

いいなと思ったら応援しよう!