夢を叶えた五人のサムライ成功小説【川端雄平編】11
この作品は過去に書き上げた長編自己啓発成功ギャグ小説です。
数日後。
林の単独ライブ当日の日が訪れた。
『起きなさい、ボケ』
いつものように目覚まし時計から音声が呼び掛ける。
次第に大きくなり、やがては口調が完全にヤクザ者だった。
『こら、起きんかい。起きさらせ!おんどりゃ~』
うとうとしながら目を覚ます。
と同時に由里からのコール音がけたたましく鳴り響いた。
雄平は携帯電話を手に取って、由里の話しにうんうんとだけ返答した。
眠気眼で待ち合わせ場所へと向かう。
いつも待ち合わせしている駅で由里と合流した雄平。
ふたりは電車に揺られ、現地へと向かう。
気乗りがしないのか、浮かぬ顔をしながら車窓から景色を眺める。
高校時代には毎日この電車に乗っていた。
通学していた頃とは比較にならないほど、今ではすっかり風景が変わってしまっている。
由里とは同じ高校で二年生の時に同じクラスになり、以来、交際を続けてきた。
もう互いのことなら誰よりも理解しあうふたりだった。
やがて目的地近郊の駅に停車した電車から下車したふたりは、柴田の待つバーへと向かった。
柴田がバーの駐車場で葉巻をパカパカ吸って待っていた。
足元には五本の吸い殻のカスが散乱している。
いったい、誰にチャッカマンを手渡し、火を点けてもらったのだろうか・・・。
雄平は思いきって聞いてみた。
『あの~、葉巻の火は誰に点けてもらったんですか?』
柴田は雄平を見て言った。
『お前が何故、プロになれないか分かったか?』
『俺の質問に答えてくださいよ』
『プロになったら教えてやるよ』
『俺はプロになれないって言ったじゃないですか』
『あぁ、今のままではな』
『意味がさっぱりだよ』
雄平は言葉を吐き捨てて已む無くバーのドアを開けた。
店内はなにやら盛り上がりを見せている。
視線を向けると悪夢であってほしいと青ざめた雄平の表情が今にも狂い叫びそうな勢いだ。
由里も両手を口に当て驚愕した。
柴田は笑いを抑えきれずにいた。
三人の視線の先には、なんと先日のライブのメンバー五人が総出で
林コールを連発し、当の本人を胴上げしていた。
舞台の壁に吊るされた横断幕には、林の単独ライブ50回記念の文字がきらびやかに浮かび上がっていた。
柴田の顔を見る雄平。
『あんた、俺をどうしようって訳?』
ふてくされた雄平を見透かすかのように笑った。
『林の歌をまずは聴こう』
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