頓挫師

誰にも見せないエッセイ

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最近の記事

ニックドレイクに出会った日

Nick Drakeと出会った時、既に彼が亡くなった年を超えていた。 27歳になったばかりの冬。 ちょうどアコースティックギターの熱に憑かれていて ニールヤングからサイモン&ガーファンクル、そしてボブディランへとフォークの巨匠の軌跡を辿っていた。 専らピックでコードを鳴らし そこにそれらしい歌詞を重ねる。 シンガーソングライターのフォーマットに則ったごっこ遊びに耽っていた。 もう少し何か、自分にぐっとくるものはないか。 フォーク おすすめ  ニックドレイクの名前を見

    • 死ぬのも簡単ではない

      初めて喪服を着た。 朝から新幹線に乗り、会場に着くと 1000人以上の参列者。 僧侶が出てきてお経を読む。 度々私たちも立ち上がり、黙祷。 正直殆ど関わりのない人だけに、半ば仕事のようである。 そして思った。 「死んでからも面倒くさいんだな」 生きていく中で面倒くさいもの、しがらみがたくさんあって、病気や怪我をして亡くなってそれでおしまいというわけにはいかない。 最後の最後まで他人に労をかけるのが人間。 ものすごく嫌になった。 山の中とかで人知れず朽ち果てたいと思

      • 失われた30年

        ソ連が崩壊して 瓦礫の中から俺たちは生まれた。 社会主義の残骸が俺たちを産み落とした。 と、されている。 社会主義は きっと失敗だった。 誰なら何とかしてくれる? もうあいつもやつもいやしない。 俺たちには過去がない。 失うべき過去がない。 瓦礫の中で花を見つけて 水をあげなくてはならない。 綺麗な水などどこにある。 我々にはコンビニがある。 コンビニさえあれば 我々は生きていける。 どこから来るかもわからない 水と食料とタバコと酒と コンビニさえあれば。 生きてい

        • 私たちはただの星とベーコンに過ぎない Carl Sagan

          YouTubeのショート動画をだらだらと流し続けて たどり着いた曲。 レイナ・デル・チドさんというアーティストの カールセーガンという曲。 カールセーガンはテラフォーミングや宇宙の歴史を一年に置き換えた宇宙カレンダーなど、宇宙に関する大きな業績を残された方らしい。 宇宙カレンダーは学生のころに見てびっくりしたのを覚えている。 地球外生命体の研究だけでなく、SF作家でもあったらしい。 彼からインスピレーションをうけたであろうこの曲は、派手な曲ではないが、しんみりと心に暖か

        ニックドレイクに出会った日

          冬は惨め

          凍える夢は惨めだ 目が覚めても震えている 私にはまだ体温がある いつかは冷たい岩のように 春になっても誰にも見つかりませんように 凍える冬は惨めだ 雨の音にも優しさがない あの季節は違う 雨は 優しい音がして 濡れたとて些細な問題ではない 幸せだった 人生で最も幸せな日々は ただ一度だけやってくる 私にはまだ体温がある 朝が溶けたら 誰にも見つからないように 一人で雑炊を たまごを割る音の側で 現実が見つめている もう誰も来ない 冬は惨めだ 冬はあ

          息をする、我に返る

          「もしポリープを放置したままだと最悪癌になるぞ」 いつからあんまり響かなくなったんだろう 健康でいたいと思うのはこれからも生きていくつもりの人間だけだ 私は自分の寿命を知っている もうゲームは終わった 延々と続く草原を抜けて 砂漠を歩いている これは無限ループだ もう誰もいない 続ける必要がない たとえ病気になってもならなかったとしても いくら歩いても砂漠が終わらないことに とうに気がついている 金縛りに遭うことが多くなった 霊的なものではなく 脳が起きていて

          息をする、我に返る

          ビートルズ緑盤答え合わせ

          ビートルズ最後の新曲『Now and then』が出たが 同時に赤盤、青盤のベスト盤のリミックスが出たらしい。 今回は新たな曲がベスト盤に21曲も! 追加されている。 ビートルズ裏ベスト盤を考える、通称『緑盤』の答え合わせといってもいいのでは? 以下追加されたトラック。 John 8曲+カバー2曲 Paul 5曲 George 4曲+カバー2曲 Ringo 0曲 PPMから 2曲 WTBから 2曲 HDNから 1曲 RSから 1曲 Reから 5曲! Sgtから 1曲

          ビートルズ緑盤答え合わせ

          俺は宇宙を殺したい

          ※備忘録として  昔に書いた曲 『売血奴』 作詞&作曲 頓挫師 左折する車 止まらない腹痛 ゴミのような雨 与えたものすら貰えるはずもない 吐かれた唾 無慈悲な電車 ゴミのような風 世界中が俺を邪魔しようとする 俺たちは違法な値段で 買い叩かれて 奴隷になる 人の欲望はアレを引き寄せ あの子は今日もむさぼり食われる 夢を金で買いたい ほんの僅か笑えるなら "あした"は人質で それは永遠に来ない 宇宙を殺したい 俺は宇宙を殺したい 夜明けのゲロを野良猫が食う ゴミ

          俺は宇宙を殺したい

          ふぞろいにもなれない人間

          ふぞろいなものを恐れている 不揃いなじゃがいも 不揃いなにんじん 不揃いのりんごは 味も何も変わらないのに 不当に安い値段で買い叩かれる 基準よりも 大きすぎる 小さすぎる 細すぎる 長すぎる 曲がりすぎる 濃すぎる 薄すぎる 世の中に溢れる食品だけで どれだけ基準からはみ出て捨てられる 野菜や果物があるかを考えたら (どの口が人間の個性なんて言ってんだって感じ) 知らぬ間に 当たり前のように 選別されたそれらを買い、食べている そして時々安い値段で 不揃いなそ

          ふぞろいにもなれない人間

          インスタで映える死に方

          マルボロの匂いは幻想的 今よりももっと幸せだった 地獄の時代を思い出させる あの時はまだ若かった 缶酎ハイ一本も飲み干す前に 眠りにつけたぐらい ダメ押しの白湯で薬を流し込んでも 朝にはすっかり二日酔いの くそがきの出来上がり それでもやっぱり歳をとった 何も失わないように 必死で生きて 何も得られなかった ずっと前より増えた薬を ウィスキーで流し込む それでもやっぱり 気分が晴れない それもそうだ だってこれは朝に飲むやつだ 『やっぱ』は東京の方言らしい

          インスタで映える死に方

          雨をぶっとばしたい

          雨が降り始めて もう全部終わったと思った。 怒りが止まらない どこにぶつけるわけにもいかない いっそ看板でも標識でも 叩きのめしたら すこしは気分が落ち着くかもと考えて すぐにやめた 雨を殺したい 雨に濡れたら、もうおしまいだ 絶望しかけた最後のひと押しを 雨は何の感情もなく叩きつけてくる 知らない人しかいないこの世界で 突発的な怒りで雨を殺したいと思う人は いるんだろうか。 いたとしても近寄りたくない 雨を睨みつけながら電車に乗った 大きな川を越えたあたりで

          雨をぶっとばしたい

          呪いの少女

          少女は呪いを置いていった 冬が近づくたびに 時間に割かれた記憶が 這い上がり 朝が来れば 澄み切った夜露のように 夜で染めた髪 思い出せないあなたの声 生きているあなたは 何も言わなかった ただその後ろ姿が 私に呪いをかけ続ける 世界が小さくなっていく そして私は枯れていく あなたの呪いに 触れることもできずに

          呪いの少女

          暴力装置としてのイオンモール

          イオンモールは暴力的だ。 これからも生きていく人のために全ての商品が用意されている。 仏具屋や葬儀屋は中にはあるけれど、 それは死んだ人のためだけのものではないし 殆どの人はそれを 寝具屋とか、保険屋と同列の並びで見ていて もしかしたら疑問にすら思っていないのかも 根拠なし きっと95%の商品やサービスは生きていく人のためのもので、5%は既に死んでしまった人を持つ生きていく人のための商品だ。 イオンモールは暴力的だ。 やむにやまれず潜り込んだら いつも切り裂かれて帰

          暴力装置としてのイオンモール

          生きるのにも飽きて雨を聞く

          秋は焦燥  傲慢な憂鬱もお終い 浮ついた夢は  はじめから形無し 微熱の呪い  病み上がりのまま やるせない夏も ふて寝してお終い 真っ当に傷つくことを諦めて 緩やかな根腐れへの あこがれだけ 夜が長すぎて 生きるのにも飽きて ただ雨を聞く 轢かれた雨の 嗚咽で今日も眠れない

          生きるのにも飽きて雨を聞く

          ラスボスが消えたこの世界で、なぜ私はレベル上げを続けるんだろう

          雑記。 ジョーク。 バグかはわからないが、いつの間にかラスボスが居ないことになっていた。 Aボタンを連打してレベル10台のチュートリアルは終了した。 沼地の奴隷商人に売られ、レベル20〜29の全てを毒・のろいとの戦いに費やした。 得られた経験値は微々たるもの そしてレベル30になったとき、少しずつ視界が開けてきた。 最初の城からたった数十歩しか歩いていない。 そして何より、ラスボスはいなかった。 正確に言えばクリアできなくなっていた。 王様はよく言っていた。 「よく勉

          ラスボスが消えたこの世界で、なぜ私はレベル上げを続けるんだろう

          The Band 『Whispering Pines』#今日の一曲

          The BandのWhispring Pinesという曲が好きだ。 シンプルながら繊細なピアノをバックに 霧のような儚さを感じるリチャードマニュエルのヴォーカル。 ガースハドソンのオルガンが曲の全体に憂いのあるヴェールをかけている。 whispering pinesとは何なのかを少し調べたのだが、作詞のロビーロバートソンの生まれ故郷の景色のような気がしてきた。 カナダのトロント生まれの彼の幼少期の原風景。 早くにユダヤ人の父を交通事故で亡くし、母はネイティブアメリカンだ

          The Band 『Whispering Pines』#今日の一曲