【文化財紹介】大正時代の小さなホテル ~伏見ビル~
【2023年4月1日/大阪歴史倶楽部】
今月は大阪市中央区にあります大正時代に建てられた小さくてモダンなホテルの建物をご紹介いたします。
伏見ビル
伏見ビルは、大阪市中央区の古くから「船場」と呼ばれてきたエリアの中にあります。この船場地域(概ね現在の北浜から心斎橋あたりまで)は近世以来、伝統的に大阪の商業の中心地であり明治以降の近代大阪においても大阪経済の中心地となっています。
1937(昭和12)年に御堂筋が開通するまでは、長らく大阪市のメインストリートであった堺筋。伏見ビルは、その堺筋の1本西側を南北に通る藤中橋筋とそれに直交する伏見町通との小さな十字路の南東角に位置しています。
この伏見ビルは、1924(大正13)年頃[※]にホテルとして建てられました。当初は「澤野ビルヂング」という名称でしたが、1931(昭和6)年に所有者が替わりました。現在はギャラリーや事務所、レストランなどが入居するテナントビルとして利用されています。
[※]1923(大正12)年の竣工と言われていますが、ここでは文化庁の『国指定文化財等データベース』に従い「1924(大正13)年頃の竣工」といたします。
外観の写真
以下は伏見ビルの外観の写真です(2023年2月 大阪歴史倶楽部 撮影)。
建物の特徴
この伏見ビルは、1924(大正13)年頃に「澤野ビルヂング」として建てられました。鉄筋コンクリート造3階建てで、設計は辰野片岡設計事務所出身の長田岩次郎氏です。
当時としては珍しいモダンな西洋風のホテルとして大いに注目されたそうです。外観は当時世界的に流行していたアールデコ風のシンプルなデザインですが、丸味を持たせた建物の角部分や水平を強調するラインを施した角の装飾、3階窓上の丸窓を連想させるような円形の飾り窓とそこに十字状に嵌められた金属棒の装飾などが特徴的です。2002年に国の登録有形文化財となりました。
この伏見ビルの東隣には、1921(大正10)年に建てられた青山ビル(国の登録有形文化財)があります。
伏見ビルへの行き方
伏見ビルへは、大阪メトロ堺筋線および京阪電車の「北浜」駅6号出口から約100m(徒歩約1分)です。
行き方の目安は「北浜」駅6号出口を出て、堺筋沿いに30mほど南へ進み最初の角を西(右側)へ入って約70m(徒歩約1分)のところにあります。
おわりに
今回は大阪・船場にある大正時代に建てられた小さくてモダンなホテル建築である伏見ビルを紹介させていただきました。
伏見ビル(旧 澤野ビルヂング)は、1923または1924年(大正12または13年)の竣工ということですから、いまから100年(1世紀)ほど前に建ったことになります。
しかしそのシンプルで古さを感じさせないスッキリとした外観の印象には驚きます。そのなかにあっても洋風の縦長の窓や丸窓(を連想させるような飾り窓)には近代建築特有の深い味わいや当時大阪市が最も繁栄していた大正時代後半から昭和の初め頃の「大大阪時代」のモダンな雰囲気を感じることができると思います。
なお、ここで紹介いたしました伏見ビルさんおよび青山ビルさん等の建物を見学したり写真や動画などを撮影されるときには、所有者さんや管理者さん、周辺の方々に不快感を与えたりご迷惑にならないよう充分なご配慮をお願い致します。
また許可なく他の人の敷地内に入ったりしないようお願いいたします。とくに建物内部の撮影はセキュリティの関係もありますので、必ず所有者さんや管理者さんなどの許可を得てくださいますようお願いいたします。
今回も最後までお読みくださり、ありがとうございました。
【参考にした資料】
◎高岡伸一 他『大大阪モダン建築』青幻社 2007年
◎『国指定文化財等データベース』文化庁 2023年
◎高岡伸一『伏見ビル』大阪市リーフレット
◎「伏見ビル」『大阪文化財ナビ』大阪府建築士会 2023年版(WEB版)
◎「伏見ビル」『船場navi』船場倶楽部・集英地域活動協議会 2023年版(WEB版)
◎「伏見ビル」『大阪中心』大阪市中央区オフィシャルサイト 2023年版(WEB版)
(『大阪歴史倶楽部』第2巻 第4号 通巻12号 2023年4月1日)
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※次号は2023年5月1日に投稿する予定です。