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ハタ(傍)の者をラク(楽)にする事が本当の働く事


タイ北部山岳部。

かつて、世界最大の麻薬・覚醒剤密造地帯、ゴールデントライアングルの一角であったこの地域でケシ栽培をしていたのがタイの山岳民族でした。

そんな彼らの生活は劣悪な労働条件、低賃金のため困窮していました。

その山岳民族を救ったのが、現地の山岳民族の人たちから「アジャーン・マナオ(マナオ先生)」と慕われていた
梅林(うめばやし)正直(まさなお)氏でした。(2020年5月27日死去)

氏は昭和8年(1933)生まれで、当時、三重大学農学部の教授をしていた梅林氏は昭和54年(1979)年以降、農業支援のために度々、タイを訪問していました。

氏がタイで農業支援活動に力を入れる背景には、若い時に日本に研修にやって来て仲良くなった今は亡きタイの友人がいたからでした。

そんな氏が、平成7年(1995)に国際協力事業団のプロジェクトでタイ北部に赴任した時の事です。

「国境地帯でケシの代わりに栽培できる作物は何かないでしょうか?」

と、現地の日本の海外青年協力隊員から相談を受けました。

麻薬撲滅に本腰を入れたタイ政府は、ケシの実栽培禁止令を出し、ケシ栽培の代わりとなる作物栽培の援助を受け、村々でコーヒーや桃などの作物を育てさせたのですが、病害虫に見舞われたり、

また標高1500mという山岳地帯のため悪路が続くため道中で何を作っても運搬中に痛んでしまい等して、作物栽培は上手くいっていなかったのでした。

この話を聞いた、土壌学、植物栄養学が専門の梅林氏が提案したのが梅の栽培でした。

梅は寒暖差がある高地での栽培に適しており、その上、日持ちもよく市場から遠い山岳地帯で生産しても商品価値が下がらないという利点もあり、まさに山岳地帯で栽培するのに適した作物でした。

ということで、梅林氏は山岳民族の住む村の一つ、パンコーン村で梅の栽培を提案しました。

最初、見知らぬ日本人の提案に半信半疑でしたし、梅の実がなるまで3年かかります。

つまり3年間は無収入。

ですが

「定着すれば、村の収入源になる」

という梅林の熱意に心を動かされた村長達と協力して、ケシの畑を取り払い300本の梅の木を植えたのでした。

それから一年半後の平成9年(97)年の2月。

大学退官を直前に控えた梅林氏が再び村を訪れると、50センチほどだった苗が4、5メートルに成長していました。

これを見て梅林氏は

「やってみる価値はある。亡き友人のために、これからの人生をかけてみよう」

と第2の人生をタイでの植樹活動に費やそうと決心したのでした。

ところが、

北部の山岳民族が暮らす地帯は三角地帯の一角。

麻薬組織も暗躍する危険地帯なのでタイ・日本政府からの現地派遣と資金援助は断られてしまうのでした。

ならばと、1人で植樹活動をしようと決めた梅林氏は三重大学退官後、チェンマイ市内に家を借り、そこを拠点にして1年の半分をタイで過ごしながら植樹活動を開始したのでした。

苗の買い付けなどの植林にかかる費用は年間約150万円。

この費用を日本での講演やホームページ嘱託収入などで工面しながら活動を続けました。

「自分の頭と体とお金を使って汗を流すのがボランティアの原点ですから」

そう言って1人で活動を続け

最初の苗を植えてから4年後。

立派に成長した木から収穫された梅の実は桃の5倍の値がついたのでした。

すると、その話を聞いた他の村々から

「うちの村にも」

と次々と声がかかり、梅林氏は四輪駆動車で村々を巡り、標高の高い地帯には梅の木を、また標高の低い山岳地帯では、マナオと言うタイのライムの植樹活動をつづけました。

この氏の活動が評価され、タイ政府から2000年に「タイ国友好賞」が、2008年には外務大臣表彰が贈られました。

2009年までに植えた梅の数は約2万2千本、マカオは約1万4千本、その額は約2千万円。

ただ一人で、費用を自分で工面しながら活動した氏を支えていたのは、彼の父親の言葉でした。

「ハタ(傍)の者をラク(楽)にする事が本当の働く事」

そして、その見返りこそが、梅栽培のおかげで、かやぶきの家は瓦ぶきの2階建てになり、電気の通っていなかった村に電気が通り、ケシ栽培に頼らずに生活できるようになった村人たちの笑顔だったのでした。


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