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織田 聖一
2022年3月6日 18:46
そこには何もなかった。 教会や学校、食堂といった数々の建築物や家々のほんの一部だけが僅かに取り残され、かつてそこに存在していた人々の営みの残り香だけが、鼻を突く焼け焦げたすすの匂いを纏って立ち上がり、それ以上の意味を成していなかった。 建築物だけではない。過去の世界で生きていた“何者か”だったモノの残骸が散り散りに点在して微動だにしない。ある者は俯いたり縮こまって身をすぼめ、またある者は