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冷たい男 第5話 親友悪友(11)

 少女は、怒り、苛立っていた。
 ハンターは、呆れたような表情でアイスを乗せたスプーンを口でブラブラ動かしていた。
 冷たい男は、困ったような照れたような恥ずかしいような表情をし、見たこともないくらいに身を小さく縮めていた。
 そんな3人の様相など気にもせず冷たい男の両隣に座る2人は嬉しそうに声を上げる。
「おにい様、これ召し上がります?」
 ロングの子が目を輝かせてフォークに刺したチーズケーキを冷たい男の口元に持ってくる。
「こら何言ってるの!おにい様は熱くなくちゃ食べれないのよ!これはいかがですか?」
 そう言ってショートの子はほっぺたを林檎のように赤らめてコーンスープを掬ったスプーンを冷たい男の口元に運ぶ。
「い・・いや大丈夫だから。1人で食べれるし」
 冷たい男は、やんわりと断ると、その途端に双子は涙目になる。
「そんな・・・私たちのこと嫌いになったの?」
「私たちは、おにい様をお慕いしてるだけなのに、それが
ご迷惑なのですか?」
 2人は、おいおいと泣く。
「いやいやそう言うわけじゃないから!」
 冷たい男は、慌てて泣く2人を宥めようとする。
 ハンターは、冷めた目で3人のやり取りを見ながら溶けかけたアイスを口に運ぶ。
「・・・あんたこれどう責任取るつもりよ」
 ハンターの耳に少女の声が入る。
 胃の底が捻られるような痛みのある声が。
 ハンターの頬に汗が流れる。
「い・・・いやオレもこんななるとは思えへんかったんで・・・」
 ハンターは、震える声で言い訳する。
 しかし、少女の目の黒い炎は消えない。
「・・・とかしなさい」
「はいっ?」
「何とかしなさい・・・!」
 ハンターは、彼女の目の奥に三途の川を見た。
 ハンターは、3人の、いや双子を向かい合う。
「おいっお前らええ加減に」
 しかし、ハンターは二の句を告げることが出来なかった。
 ロングとショートの双子が縦長の赤い目を向ける。
 昨晩と同じ、いやそれ以上の侮蔑と嫌悪を込めてをハンターに向ける。
「話しかけんな。穢らわしい」
「このゴミにも劣るゴミが。口を開くだけで大気汚染だ」
 美しい顔からは、想像も出来ないような汚らしい言葉にハンターは、身を引く。
「お・・・お前ら態度違いすぎやろ」
 しかし、少女たちは世界で1番汚らしいものを見るようにハンターを見下す。
「呼吸をするな!汚らしい」
「こちらを見るな!世界が汚染される!」
「音を聞くな!風にカスが紛れ込む」
「臭いを嗅ぐな!この世の花が枯れる!」
「「ピンクに謝れ!」」
 可憐な少女達のの口から溢れる悪口雑言にハンターは、涙を流してアイスの器の横に顔を伏せる。
「なんやろ・・・オレ・・生きててええんかな?」
 絶望と失望の混じった声を漏らす。
 そんなハンターを見て少女は額に手を当ててため息を吐く。
 そして双子が縦長の赤い目でこちらをじっと見ていることに気付く。
 2人は、初めて少女の存在に気づいたかのように瞬きせずに見ていた。
 ハンターへの口撃を見ていただけに少女は身を引く。
「な・・・なに?」
 しかし、少女の質問には答えず双子は、縦長の赤い目を冷たい男に向ける。
「おにい様」
「この女は一体・・」
「「なに?」」
 双子の声がソプラノになってハモる。
「えっ?」
 冷たい男は、思わず間の抜けた声を上げて少女を見る。
 少女も青ざめた顔で「えっ」っと呟く。
 双子は、交互に冷たい男と少女を見る。
 ここで2人が変なことを言ったらどうなるのか?
 2人の間で空気が張り詰め、頬に汗が一筋流れる。
 しかし、その空気は直ぐに針で刺される。
「そいつのコレやで」
 ハンターが左手を上げ、小指を立てる。
 張り詰めた空気が弾ける。

 このバカ!

 冷たい男と少女が心の中で怒声を飛ばす。
 双子の少女は、目を見開き、冷たい男と少女を交互に見る。
 そして少女で止まるとじっと見つめる。
 少女の顔に怯えが走り、椅子から転げ落ちそうになる。
 双子は、半身以上乗り出して少女に顔を近づける。
 まずい!
 冷たい男は、少女を守ろうと手袋に手を掛ける。
「・・・様」
 ショートの子の口からぽそっと声が漏れる。
 ロングの子が手を伸ばして少女の手を取る。
 とても柔らかくて温かい感触に少女は戸惑う。
 縦長の赤い目が消え、潤んだ羨望の眼差しが4つ、少女を見る。
 
「「奥様!」」

 2人は、蕩ける様な声を発して少女に詰め寄る。
「おにい様にこんな素敵な奥様がいただなんて!」
 ショートの子は、少女の隣に座るとぎゅっと少女を抱きしめる。
「い・・・いや私達まだ結婚は・・・」
「私達、一生付いていきます!」
 うつ伏せてるハンターを引っ張って床に倒し、ロングの子もまた少女に抱きつく。
 花の様な良い香りに少女の頬は思わず赤くなる。
 2人は、赤らめた顔で少女を見上げる。
「「ずっとお側にいさせてください」」
 少女は、頬を赤らめて困った顔をして冷たい男に助けを求める。
 冷たい男は、脱ぎかけた手袋そのままに頬を引き攣らせて笑う。
 ハンターは、だらしなく力が抜けたまま床に伏せる。
 冬の始まりの喧騒はゆっくりと流れていった。

               了
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