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カバーがとてもお洒落で、文章は暖かい「五月の雪」

<文学(207歩目)>
想定以上に素晴らしい作品の詰め合わせ。
酷寒であっても、あたたかい人間描写はもちろんできる。流刑地故の文化がとても興味深い(文化的に先進地域)短篇集です。

五月の雪
クセニヤ・メルニク (著), 小川 高義 (翻訳)
新潮社

「207歩目」は、クセニヤ・メルニクさんの短篇集。水準を大きく超えて良かったです。

旧ソ連時代の極東の酷寒の流刑地マガダン。ソ連は崩壊して、ロシアに。
でも、資源は豊富でも、生活は酷寒でキビシイ。

そんな地で生活する数奇な運命を描く短篇集。

人間描写について、とても興味深く読める。

それぞれの短篇は独立しているが、魅力的な登場人物が交錯していて、もっともっと読みたくなる。

「イタリアの恋愛、バナナの行列」
ソ連末期、モスクワへの出張時にアバンチュールが。色々な葛藤の末にターニャが選んだ選択がよかった。
とても短いが、脳裏に残る作品でした。

「皮下の骨折」
運命による結果って?本人の努力も何も吹っ飛ばすくらい影響が大きい。
何がいけなかったのだろう。何がこんな運命にしたのだろう。
二人のアナトリーの運命の差が心を突いた。
「ああ、ロシアの女!あたしの男でいてくれたら、あとはもう構わない」という原理が本当に存在するの!?たくましい生き方で熱量が凍てつく大地も溶かしそう。

「何をやってもだめな幼なじみは、幼かった時代に置いておくほうがよい。」なんともまぁ、な言葉。

「イチゴ色の口紅」
この短篇集で一番印象深い。
日本的には、強すぎる色合い。このイチゴ色の口紅は「強い意思」を相手に伝える。

ゾーヤとオーリャとダーシャの三姉妹。
1つのベッドでくっつきあって眠る三姉妹が、貧しいけれど愛ある生活を強く感じさせる。1つのベッドからそれぞれが飛びたつ時、いろいろな人生の運命が待ち受ける。
人生に踏み出していくと、思い通りにならないこと。まさに運でしかないことに翻弄される。それでも、起き上がってイチゴ色の口紅をさして、次に進んでいく。
この作品の文中にいくつか、ロシアの(?)ソ連の(?)格言が入るが、これがとても興味深い。
「一度ぶたれた男には、もう一度ぶたれる」なんともまぁ!なのだが、DVする男は、次もまたやるのだろうな。これは日本でも同じかも。
「結婚しても木皮の編み靴は履けない。花嫁は斧を持ち、花婿は裸足である」これもなんともまあぁ!なのだが、ぐうたら男には生活力のある女性がつくのは、ロシアも日本も、あるいは世界中同じなのかも。
私はオーリャが大好きです。

「ルンバ」
極東のマガダンが、実は高学歴者の知識階級の流刑地であったこともあり、独特の文化圏を形成していることを初めて知った。
そして、男女の駆け引き。愛しているからこそ、どう相手に接していいのかわからないこと。よくあると思う。
この物語はとても参考になる。

「クルチナ」
老いたマーシャの言葉「いつかそのうちにね、あなたにもわかると思う。誰かの人助けをできるってのが、世界で一番大きな幸せだよ。その誰かの血が自分の血管にも流れてる、なんて人だったら、なおさらだ」
マーシャお婆さん、最高の贈り物です。
クルチナを聴いてみました。

クセニヤ・メルニクさんの作品はこの作品しか翻訳されていないが、とても好きな作品の詰め合わせでした。

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