
人類は物語を求めている「スメラミシング」
<SF(229歩目)>
表題作が有名で、ディープステートにノーマスク運動等が帯に描かれているが、「宗教」をテーマとした小川さんの新しい世界です。
スメラミシング
小川 哲 (著)
河出書房新社
「229歩目」は、小川哲さんの意欲的なSF短篇集。
「宗教」って、何かに物語に熱狂している状態。
これは、日常の恋愛でも、宗教でも、同じ状態であり、その「物語」を信じる性質を私たちが持っている。これに対峙するのではなく、共存していく姿勢が刺さりました。
「七十人の翻訳者たち」
ヘブライ語の聖書をギリシャ語に翻訳する。ここに信じたい「物語」がある。
この「物語」が多くの人々を巻き込んでいく。
この過程の「物語ゲノム解析」という考えがとても面白い。
「偽書」が「偽書」ではなく正史になる過程がとても面白い視点でいいです。
「密林の殯(もがり)」
信じたい物語としての「天皇陛下」に踏み込んだ意欲作。
話題にづらいテーマを現代風に切り取るとこんな感じだと感じる。
「amazon」と「天皇陛下」を同列で論じることは通常はできない。
作中の「誰かと天皇の話をするのは難しい」という一文が示している。
それぞれの人の中に、それぞれの「天皇陛下」がいること。
これが、それぞれの「物語」であると気づかされる。
「スメラミシング」
表題作。現代の陰謀論に端を発した作品だと思いますが、実は陰謀論は昔からあった。
ただ、それぞれが信じたい「物語」が分散していただけと気づく。
500人が集まってのデモはそこだけ切り取ると大きな動きに見えるが、120百万人のうちわずか500人。国民の0.0004%にしか過ぎない。
つまり、社会への不満は今も昔も変わらない。
しかし、SNSという「つながる」機能とリコメンドという「おすすめ」の機能を技術的にしっかり理解していけば、あるいは教育することにより、カルトとか原理主義とか陰謀論への耐性が強まると思う。
そして人類が「物語」を求めていることも。
小川さんのこの作品は、若者にも。そして高齢者にも考えさせられる作品だと思う。
「神についての方程式」「啓蒙の光が、すべての幻を祓う日まで」
あ~、視点がとてもいい。
なんか、この作品をテーマにして色々と考えてみたい。
でも、これが自分自身のオタク傾向で、こんな「物語」を信じたい気分を突いていると思いました。
自分自身も、数学がそのまま宗教的になりかねないと感じています。
「ちょっとした奇跡」
この短篇集で一番、一般的な心を突く作品。
でも、「物語」を求める人間の気持ちというお題での作品になっている。
この作品は、読後感が他の作品とは違って感じた。
何時もながら、小川さんの感性はとても共感できる。
また次作も即購入して読みたくなりました。
#SF小説が好き #わたしの本棚 #スメラミシング #小川哲 #河出書房新社 #七十人の翻訳者たち #ヘブライ語 #ギリシャ語 #密林の殯 #天皇 #八瀬童子 #amazon #スメラミシング #陰謀論 #ディープステート #ノーマスク運動 #神についての方程式 #ゼロ・インフィニティ #宗教考古学者 #啓蒙の光がすべての幻を祓う日まで #理国 #神 #ちょっとした奇跡 #明暗境界線 #宗教 #物語 #SF #SF