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死んだ者だけが降りることができる「寝台特急黄色い矢」

<文学(203歩目)>
文体についていけるか?最初の20ページ程度が合うか合わないか。

寝台特急黄色い矢 (群像社ライブラリー 26 作品集「青い火影」 2)
ヴィクトル ペレーヴィン (著), 中村 唯史 (翻訳), 岩本 和久 (翻訳)
群像社

「203歩目」は、ヴィクトル・ペレーヴィンさんの代表作の一つ。短篇集だが難しい。集中して時間を作ったら、素晴らしい世界に。

ペレーヴィンさんの作品で、今まではシンプルに楽しめたのは、「宇宙飛行士オモン・ラー」
対して、この「寝台特急黄色い矢」は集中力を必要とする。だけど読後に問いかけられる作品です。

ロシアで読まれた理由は、表題作までたどり着いて理解できた。

ソ連とロシアの双方に深くかかわる作品ばかりです。

「幼年時代の存在論」
この短篇集で一番難易度高いと感じた。
子どもの時代を幸福に感じるメカニズムを突いてくる。
色々なディストピアの作品があるが、フィクションとして描かれているが、リアルなディストピア社会をもとに幸福とは何か?を突いてくる。
もうソ連崩壊してからかなり時間が経っている。

しかし、「収容所」というリアルなディストピア社会の民族への記憶はぬぐえない。極めて過酷な社会だからか、リアルな世界がディストピア社会だとこんな切り口になると感じた。
ロシアでものすごく売れたということは、リアルなディストピア社会であるソ連時代を共有しているからだと思う。

「ニカ」
とても魅力的な作品。どうしても理想の異性を考えると「作り上げたい」との願望はあると思う。この作品のプロットは日本の男女にも通じる。
「宇宙飛行士オモン・ラー」と同様に、シンプルに楽しめる作品。
この作品だけでも普通に読まれてもおかしくない。
「ニカ」は「いいね!」です。

「ターザン・ジャンプ」
この作品もペレーヴィンさんの中では読みやすい作品だと思う。
「幼年時代の存在論」が巻頭であるが、「ニカ」「ターザン・ジャンプ」でトップスピードまで上げてから、「幼年時代の存在論」や「寝台特急黄色い矢」に進む方がよかったと思いました。

「ミドルゲーム」
かなり尖った作品。信じていた制度が崩壊したときに、人は何を信じていくのか。
あるいは、禁じられていたものが復活していく。。。
このテーマの作品は最近も読んだが、やはりペレーヴィンさんは読ませてくれる。ちょっとソ連社会からロシア社会に移行するとは、まさに突き落とされた感覚だったと思う。いわゆる、ジェットコースターとかバンジージャンプを国民全体が行っている感じ。うわっ、きっついことを国民全体でやっていて考えさせられる。

「寝台特急黄色い矢」
表題作で、この短篇集では一番深く入れる。
死んだ者だけが降りることのできる寝台特急に読者を乗せて疾走する。
この特異な世界を作り出し、読者を引っ張っていく。これがペレーヴィンさんのすごさだと思う。「宇宙飛行士オモン・ラー」の時に感じた衝撃がまた走りました。
「宇宙飛行士オモン・ラー」は読後、地下鉄の向こうを感じる自分がいた。
この作品もペレーヴィンさんの世界に飲み込まれました。素晴らしい。

日本で売れるのか?わからない。でも、こんなうかつに触ると火傷しそうな尖った作品。出会いたいです。

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