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難民・移民問題を考えてみる「行く、行った、行ってしまった」

<文学(70歩目)>
ドイツにおける、難民問題から、これからの難民問題・移民問題を考えてみる。

行く、行った、行ってしまった
ジェニー・エルペンベック (著), 浅井 晶子 (翻訳)
白水社

「70歩目」はちょっと題名からすると、まるで外国語を学ぶ際に苦労した「時制」にかかわる物語の様で、高校・大学時代に苦しめられた私としては「・・・」だった。

しかし、読むとそんなことを伝えたいのではないことがわかった本です。読後は原題のとおりだと感じたのですが、このままだと手に取る人が少ないと感じました。

是非、現代の格差社会における難民問題・移民問題を考える人に手にとってもらいたい素晴らしい作品です。

※同様の作品では、「22歩目」で紹介した「空腹ねずみと満腹ねずみ ティムール・ヴェルメシュ」と同様に、21世紀前半を生きる日本人も読むと新たな考えを得られる作品です。ティムール・ヴェルメシュさんの様な「乾いた笑い」は無い。でも、心をうつ感動があります。

ジェニー・エルペンベックさんは、私と同世代の東独生まれのドイツの劇作家です。

2015年に刊行されたこの作品はベストセラーになったとのこと。2015年当時(メルケル首相による難民政策や、欧州のソブリン危機)を色濃く感じさせる作品です。

エルペンベックさんの物語の中では、社会を分断する「壁」についての言及が多い。これは、若かりし頃(1990年)に経験された「ドイツ統一」によるものだなと感じました。(東独の首都である東ベルリン生まれ)
東西ドイツの統合の過程で、東独生まれのエルペンベックさんは23年間(つまり、大学時代までの青春時代)を共産主義の東独の首都で過ごす。「壁」はなくなるも、有形無形の東西格差と信じていた共産主義を全否定されて今がある。

故に、現在の欧州連合と難民を生み出す国々との格差と壁にとても鋭敏なのだと思う。

私たち日本人は、「壁」を経験していないので、この「壁」に代表される閉塞感と格差はなかなか理解が難しい。しかし、少なくはなっているものの、周辺諸国との格差はまだあり、生まれた場所による如何ともし難い格差の解消の手段として日本を目指す人たちが多くなる可能性あり。

その様な時に、どの様な政策を国民統合の意思として打ち出していくか?行き当たりばったりではなく、事前にシミュレーションしておくために役立つと思いました。

そしてこの作品の中で大きく描かれているのは、先の大戦でのナチスドイツにかかわる箇所。

「彼らがいまドイツで生き延びることができて初めて、ヒトラーは本当に戦争に負けたことになるのだ。」

この発想を打ち出して、ベストセラーになるドイツ社会はちょっと脅威です。

自分自身の恥ずべき過去を歴史修正主義者は消し去ろうとしている世界の流れの中で、見たくない事実をしっかり打ち出していく作品であり、ちょっと若者に読んでもらいたい作品です。

題名で、「????」となる若者がいたら「モッタイナイ」と思います。
ロートルよりも、若者にどんどんすすめたい作品です。未来の日本のために参考になる作品です。

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