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紺碧のロゴス〔Вода во мне〕

パパ

ぼくは本当に言いたかった

喉の奥まで出かかっていたのに

なのにどうしても言えなかったのは

なぜなの?






パパ

燃やさないで

ひとつしかない大切なものを

燃え尽きてしまったら

もう元には戻らない

灰になってしまったら

取り返しがつかない

形が失われたものは

もう二度と還らないから

燃やさないで

お願い

幾重にも包帯を巻かれた

ぼくのこの喉が開いたなら

ああどうか

言葉を発することが出来たなら

でもぼく

ぼく

ぼくは何も言えなかった





パパ

ぼくは毎日この木に水をやる

そしてだんだん大きくなってきたら

また別の木も植えて

その木にもぼくは毎日水をやる

そしてそのうち

ぼくも大きくなって

木達へたくさん水を運べるようになる

そして何本も木が大きくなったら

ぼくはそれで家を造る

ぼくたちの帰る場所だよ

小さいけれどあたたかくて

何の心配もいらない安らぎの場所

ぼくたちのための場所

そのために今日もぼくはこの木へ水をやる

ぼくの上に青い空が覆い被さる

曲がりくねった道が遠くへ延びる

誰かの指笛が聞こえる





パパ?

パパ聞こえる?

これがぼくの声

ぼくのはじめの言葉

ぼくの中にある水の音










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