輪郭のない要塞〔Ворота〕
烏に擬態した城門が
バリバリと羽を拡げ私を見下ろす
お前を見せろ
お前を見せろ
怒涛の滝が突然に押し寄せ
不用な装飾を押し流す
お前を見ろ
お前を見ろ
鼓動するピストルが私の体内へ入り込み
撃ち抜きたい場所を探す
何処だ
何処だ
石畳の下から浮かび上がる最終関門
肉体の裏側へ通ずる井戸が私を呼ぶ
ここへ来い
ここへ来い
割れたアンプルから地面へ染み込む毒と
直様解毒を開始する原初の雨
不意に舞い上がり視界を塞ぐ土埃
地平線の彼方から近寄ってくる合唱の第九
はじめての衝撃を受け入れる私
〈高周波音………〉
太古の森でうたた寝する透明な記憶
色の抜け落ちた木の扉が
雑草に埋もれてキィ…キィと鳴いている
水溜りに佇む乾いた犬が
咥えているのは誰かのへその緒
生温い泥に浸かってゆく踝の感触
いつの間にか両脚の消えた私
四肢の束縛から解き放たれた魂