証言1
どうもお待たせしました、ああ、どうぞそのままで。当社のコーヒーはいかがですか?近年売れ筋のイタリアンバルシリーズ、本格的な味がご家庭で気軽に楽しめるエスプレッソマシンの最新機器です。お忙しい所ご足労頂きまして。秘書からご用件はお伺いしておりますよ。なんでも私の…ああ、ちょっと失礼、何、急ぎの電話?どなた?ああ堀田さんね。あとでかけ直すと伝えて。あ、先日はありがとうございましたと君から礼を言ってくれないか。またぜひご一緒しましょうと。頼むよ。失礼、何でしたかね、ああそうそう私共の事業、家電からIT機器、農業から不動産まで幅広く手掛けておりまして、お陰様で連年右肩上がりの成長を続けております。特徴と致しましては充実した教育制度と徹底した人材育成、そしてすべての人が働きやすい業務環境を目指し日々切磋琢磨しており、また福利厚生にも力を入れておりまして当社グループ企業全体の離職率の低さは自慢のひとつです。人材こそ財産である、というのが先代からの教えでしてね。今期から専門分野に特化した人材派遣業も始めました。なにしろ私共、人手はいくらあっても足りないものですから。製造も技術も販売も、常時人手不足で猫の手も借りたいのです。人は誰しも役割があって、社会に奉仕させて頂く事で人々の生活が成り立ち自分も生きていける、それが人間社会だと思うのです。機会がない、能力がない、職場環境に恵まれない、私に言わせればそれはすべて言い訳です。充分ではないにしろ社会保障なり行政の制度なりがありますし、僅かですが私共のように雇用捻出や社会貢献活動に尽力している民間企業や団体もあるわけで、そういったものを利用しようとしないという事は要するに働く気が無い、社会と関わりを持ちたくないんでしょうな。しかし、私はそういった方々とも繋がりを持ち、何かができたらと考える人間です。常に疑問を持ち考えよ、というのが先代からの教えでしてね。たまの休日に街の見廻りボランティアもしておりまして、その際、路上にいる方がいたらお声がけをさせて頂き、足りないものや困った事がないかお伺いしたり、また当社の事業を紹介申し上げて、もしやる気があればとお誘いするんです。ご興味を示さない方には、当社が運営に関わるシェルターをご案内します。それでもその場にいらっしゃるという方には、私の名刺を渡すことにしているんです。何かあればご連絡くださいと。その名刺があったから、刑事さんは今日こちらへお越しくださったんですよね。ええ、これは確かに私の名刺に間違いありません。ただ、残念ですが名刺を渡したすべての方について覚えてはおりませんね…。なにしろ見廻りボランティアも長年続けておりますので。それにしても、あんな事が起こるなんて驚きましたね。一体なぜ…ああ、ちょっと失礼、何?…ああそう、分かった。申し訳ありません、次の約束がありまして…。ええ、どうぞまたご連絡ください。協力は惜しみませんよ。私はここで失礼致しますが、どうぞそのまま、よろしければゆっくりしていってください。コーヒーのおかわりをぜひどうぞ。ミルクの濃厚さに拘ったカフェラテがおすすめですよ。