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【詩】真夜中の救急車

母は家に帰ってこない

幼い私は寂しくて眠れない

ベッドの中でひとり目を閉じると

遠くに聞こえてくる救急車のサイレン

私の母は

そこに乗っている




狭い車内で身を横たえて

役割を終え最後の灯火を揺らす生命

その生命の側へ付き添っているのが母

母は真夜中の救急車に乗っている




皆が寝静まる暗い夜道に

颯爽と現れる白い緊急車両

闇夜の静寂を破る高らかなサイレン

ピカピカ光るランプをぐるぐる回して

風を切って走れ一路病院へ

疾風に葉を揺らす道端の街路樹

やって来る赤信号が次々と後ろに去ってゆく

迫る危機の知らせに他の車は一時停止

どうぞ先に行ってください

今この生命の瀬戸際に

走行を妨げるものは何も無い

走れ

走れ

母が乗っているのは

生死の境目を走る特別車だ

疾走する車の中で母は

生を全うし死を迎える命を

見守り励まし

時には看取り

その身体にそっと手を置く

燃える命と母を乗せた救急車は

真夜中の道を駈け抜けてゆく




今夜も母は帰ってこない

私はまた寂しくて眠れない

遠くでサイレンの音が聞こえると

あの救急車には母が乗り

命の最後に寄り添っているのだと思う

そうして自分の仕事を終えて

ただいまと家に帰ってくる母の

首筋に抱きつく夢を見る







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