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詩「パタパタ」


母さんは棒に布を括り付けたモノを
振っている
パタパタ
パタパタ
白い粉が舞っている

母さんは雑巾を持ちながらスリッパで歩き回る
パタパタ
パタパタ
机の上に水滴が光る

母さんは忙しそうに顔を白く塗る
パタパタ
パタパタ
違う顔が現れる

母さんは買い物籠を持ってスーパーへ走る
パタパタ
パタパタ
足音が遠ざかる

学校帰り
僕がリビングの扉を開けて
母さんに目を遣ると
母さんは受話器に耳を当て
知らない人に
「私には何もないから 隙があると恐いのよ。」
と背中を丸めて言っている
窓の光が妖しく差し込み
母さんの頭上を白い粉が舞っていた

僕は急に怖くなって
パタパタと部屋に戻り
ランドセルからプリントを取り出して
空白のマスに漢字を埋めていった
ついでに
プリントの隙間に絵も描いてみた

明日になっても
母さんは
パタパタパタパタと一日の隙間を埋める

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