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詩「消える」


脳に浮かびあがるのは
最初から存在しない記憶の粒
大量に無造作に通り過ぎていくから
麗しく妖しくて
心が空虚に乱される

持ち主の名前が付いていない重たいスーツケースを月が隠れた晩に引き摺りながら歩く
開ける鍵は付いていない
秘密は秘密のまま
夜の空に月は無いから
うさぎも跳ねない

脳内は創造と破壊を繰り返した後に後退した
あの子が ふいに吐いた溜息や
遠くを見つめながら流した涙の意味は
頭の隅で沈黙した
ささくれた心は そのままに
手をつけない命題を机の隅に追いやる
進歩しない毎日の
君の顔は いつまで経っても晴れはしない

録画し忘れたテレビ番組や
部屋の隅に放置し続けた宝物や
クラスメイトにまわし読みされた手紙や
いつか作品にしようと抱いたイメージは
大切にしないから
僕の芯から音も無く消えた
消えた先は 忘却という名の暗闇
知っているのに
何度でも繰り返す…
僕が消える その日まで






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