詩「帰還」
ガラケーの応答ボタンを押すと
私とあなたの思い出の一部が素粒子となって
散り散りに地球に帰還していると聞かされたのだ
(それは 確かに地球人になりすました宇宙人の声だった。)
悲しすぎて
思い出なんて
あの時
全部ライターで燃やした
黒や灰色のカスになって散っていったから
何もかもを覚えてないよ
一瞬で鮮明に消えた
(私なんてそんなもの。)
例え
家の隅々に埃となって潜んでいたとしても
(濡布巾で拭いてるわ。)
記している小さなノートの端に書かれていたとしても
(黒いマジックで上から文字を書いてるわ。)
買い物メモの裏に小さな文字で記してあったとしても
(買い物が済んだらゴミ箱に捨ててるわ。)
宇宙人には
今を一生懸命に生きているからと伝えた
君は少し薄情で強いんだねと応えた
ガラケーはツーツーと鳴いて切れた
私はガラケーを見つめながら
地球という星はね
忍耐力が鍛えられるんだよと笑った
次の日
地球にはダイヤモンドよりも硬い強固なモノがあるのだと
何光年も先の星で話題になっていた
私は宇宙の端っこで
いつものスーパーへと走って向かっていた
(今日の特売は逃せまい。)
黒いアスファルトの上で
私が落とした汗が点々と光っていた