経営学グッドフェローズ③:リーダーシップ論のネクストステージ
1. リーダーシップ論の隘路
良いリーダーになるためには、どうすればよいのか?
管理職に着いた時だけでなく、学生時代にサークルや部活動で部長になった時、はたまた結婚して子供が生まれ家長としての自覚をもったとき、人生において一度や二度、自分の指導力に悩みを持つときがあります。
そうした時、本屋さんで偉大な経営者の自伝のコーナーに、ついつい足が向いてしまいます。彼らのようなリーダーになりたい!、そのために、偉大なリーダーの心構えや行動を学ぼう、そういう気持ちになってしまいます。
とはいえ、そういう本は読み物として面白く、勇気づけられるものの、明日の職場で活かすことができるのかは別問題。いますよね、そういう本に影響を受けすぎて、歴史上の英雄になりきった行動をして、盛大に滑ってしまう人。
経営学におけるリーダーシップ論は、リーダー(管理職)の行動を事細かに分析していく中で、「構造づくり」と「配慮」というリーダーに不可欠な行動類型を見出してきました。構造づくりとは仕事の目標を決め、行動計画や作業マニュアルなどを整理する行動、配慮とは職場での良好な人間関係や仕事への意欲に影響を与える行動です。この2つの行動を高次元でこなせる上司が優秀なリーダーであることは言うまでも有りませんが、「構造づくり」が得意な人や、「配慮」が得意な人、それぞれがリーダーシップを発揮できる職場の状況があることを、リーダーシップ論は明らかにしてきました。
このリーダーシップ論、オハイオ州立研究やPM理論が提唱された1970年代の後半には、理論的には完成してしまいました。あとに続く研究はこれらの理論をベースに、行動類型や職場の環境をより精緻化していくものばかり。よく言えば研究として洗練されていったのですが、悪く言えばこれ以上の理論的発展は見込めない、という隘路にはまり込んだのです。
こういうときには、パラダイムシフトが必要になります。
2.フォロワーシップ論へパラダイムシフト
若手研究者がリーダーシップ論から遠ざかった2000年代に、この研究領域のパラダイムシフトに挑んだのが、フォロワーシップを我が国でいち早く提唱した小野先生です。
リーダーシップを個人の行動に還元して説明するのではなく、誰かがリーダーとして振る舞う現象として、物の見方を変える。そうすると、リーダーシップ現象はリーダー一人で成立するのではなく、彼を支持し、ついていく部下との共同作業として成立していることが分かる。だとすれば、リーダーシップ=フォロワーシップの関係として、リーダーシップ現象を分析し直す必要があるのではないか、というアイディアです。
だとすると、リーダーシップ行動は「構造づくり」と「配慮」だけではなく、「フォロワーを生み出す」、「フォロワーを作り出す」といった人と人との関わりをより深く分析していく必要がある。
米国ではKellyが1992年に『指導力革命:リーダーシップからフォロワーシップへ』を発表していた考え方でありましたが、これを日本にいち早く持ち込み、リーダーシップ論のパラダイムシフトに挑んだのが小野先生なのです。
3. リーダーシップ論のネクストステージ
リーダーシップとフォロワーシップは相互に依存する関係である、というパラダイム・シフトの下で、小野先生は人々が偉大なリーダーを求める瞬間である、「リーダーシップ幻想」に注目していきます。
いわば、リーダーシップの有る無しは、部下たちが「リーダーを求め」、「あの人は優秀なリーダーである」と語りはじめる瞬間にある!
そこで、小野先生は、人々が「あの時、あの人はこうすごかった!」、「さすがはリーダーだ!」と語る瞬間に注目した分析から、リーダーシップ現象が発生する瞬間を明らかにしていく『フォロワーが語るリーダーシップ:認められるリーダーの研究』を発表します。これは、我が国の現代リーダーシップ研究の一つの到達点であると思います。
ここから更に、小野先生は思考の歩みを進めていきます。
研究者として、いかにリーダーシップ現象に介入していくのか?
研究者が、よきリーダーの誕生を支援していくためにはどうするべきなのか?
良いリーダーは、それを支持し、支えるフォロワー抜きには生まれません。
じゃあ、フォロワーはいかに、リーダーの良し悪しを判断しているのでしょうか?
実は、リーダーシップ論そのものが、その判断基準になり得るのではないか?
リーダーシップ論のパラダイムシフトに挑みつつ、小野先生は近年、多くのビジネス書を手掛けています。
それは「偉大な経営者の自伝」しかなかったビジネス書の世界で、リーダーの良し悪しを見分ける判断基準を提供していくことで、目利きできるフォロワーを育てていくことが狙いなのだと思います。そして、そのフォロワーの視線を意識していくことで、良きリーダーが生まれていく。そういう意図が、小野先生には有るのだと思います。
近年の小野先生は、最も「リーダーシップの幻想」が求められる瞬間として、企業家に注目した研究を進められています。その研究成果から、新たな「最強のリーダー」と「最強のフォロワー」を生み出していく、新たなリーダーシップの基準を示されていくでしょう。その時、我が国のリーダーシップ研究は、小野先生以前・以後に分類される、そういう時代が来るかもしれません。