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90年代邦画レビュー『激しい季節』

     『激しい季節』

1998年8月1日公開

監督、君塚匠 

キャスト 田辺誠一、高橋里奈ほか

9回の裏2アウト、それでも俺はホームスチールをやる!


車に轢かれて全治2週間

モノレール線が走る高架下。帰宅途中のサラリーマンが立ちションしている。男(井上秀樹)は酒に酔っているようで、向こうからやって来るタクシーに気がつくと、路上に立ちタクシーを止めようとするが、運転手の不注意により轢かれてしまう。車が止まり、中から慌てて赤いドレスを着た女(工藤京子)が出て来て倒れている井上を後部座席へと運ぶ。どうやらタクシーではなかったようで、「どうしよう」と運転席の京子は動揺し、「大丈夫ですか?」と井上に声をかける。病院へ連れて行くと京子はその場を立ち去る。警察には連絡はしていないようだ。井上は窓から女の後姿をじっと見つめている。

入院生活

物音に気づき井上が目を覚ますと、部屋の花瓶に花を生ける京子の姿が… 何か読みたい本はないかと聞き、好みの新聞まで用意すると言う。加害者にもかかわらず、まるで彼女のような素振りを見せ自責の念はこれっぽっちもないようだ。後から母親(昌代)と一緒にやって来た彼女(坂井知美)は、「わぁ〜すごい部屋〜」と特別室に感心しているようで、井上に対する心配や事故の動揺を感じている素振りは全くといっていいほどみられない。高校時代、バッテリーを組んでいたという友人(小野寺武)にも再会するが、何かを隠しているようで、すぐに帰ってしまう。井上は、窓から小野寺と京子が話をしているのを目撃する。

退院するも

井上は医者の許可なく勝手に退院を済ませると、京子のマンションへと向かう。すると子供を連れた京子を目撃する。レストランにて知美から結婚を迫られるが、上の空といった具合で、気持ちの整理がついていないようだ。アメリカから来たマクガイア氏の接待に同行し、高級クラブに入ると、京子に遭遇する。京子がマクガイア氏に売られたことに憤りを隠せない井上は、課長に怒りをぶつける。会社を辞め、京子の旦那がヤクザであることを知らされるが、京子への想いは変わらず、そんな2人を引き離そうと、ヤクザたちにしつこく付きまとわれる。

恋愛に壁はない

冴えない酔っ払い男が車に轢かれ、加害者の子連れシングルマザーに惚れるという、なんとも奇妙といってはなんだが、特殊なシチュエーションの映画で、見ている序盤は、なんだこの映画と肩透かしを食らった気分になるのだが、中盤から後半にかけ、徐々に作者の意図することが、明らかになっていく。本作はシェイクスピアの『ロミオとジュリエット』のように立場の違う者同士の恋愛を描いた作品だ。敵対する家系であっても、恋は敵味方を問わず落ちるものである。本作では、加害者と被害者にその隔壁が存在するわけだが、やがて2人の境界線は見えなくなる。加害者が綺麗で息子が惚れ込んでいるのではないかと言う母親との会話シーンは、あまりにも非現実的で受け入れ難いが隔たりをなくして見ればどんなに憎い相手であろうとそう見えるのかもしれない。設定が特殊な上、男に全く感情移入が出来ず、終始ポカンとした状態が続いていたが、本作は噛めば噛むほどに味が出てくるチューイングガムのようなそんな映画なのではないだろうか。

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