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なぜ、『グレムリン』のタイトルは、『モグワイ』や『ギズモ』ではないのか

『グレムリン』は1984年に公開されたアメリカの映画だ。監督は、ジョー・ダンテ、脚本は、『ホームアローン』シリーズや、『ハリーポッター』シリーズのクリスコロンバスが務めている。クリスマスの夜に大量のグレムリンが大騒ぎを起こし、町を破壊していくという、なんとも恐ろしい内容が描かれ、序盤の可愛らしいモグワイが登場するシーンからは想像し難いストーリーへと展開していく。一見すると『チャイルド・プレイ』のような子供向けのホラー映画のように思える本作だが、そこには、80年代のアメリカから見た、信じ難く辛い現実が、ある種のブラックジョークとして、自嘲気味に描かれているのだ。

「外国製の機械には小悪魔(グレムリン)が住みついてる」

発明家でありビリーの父親のランダルによって、チャイナタウンからペルツァー家へと、やって来たモグワイは、母親のリンによって、ギズモと名付けられる事になる。水を被り増殖し、夜食を食べ繭に包まれると、サナギから孵り、凶暴な生物へと変体する。そして、観客にはなんの断りもなく、唐突にその呼び名はグレムリンへと変えられていくのだ。劇中で一番はじめに、グレムリンという呼称が登場するのは、ドリーのパブで、べろべろになるまで飲んでいる、失業中のマレーが口にした愚痴からだ。「除雪機を修理に出したら部品は外国製だ。」「パッキング、ピストン、プラグ、皆、外国製だ」とぼやくと、「外国製の機械には小悪魔(グレムリン)が住みついてる」と話し始めるのだ。

80年代のアメリカ経済

失業中のマレーが愚痴をこぼしているように、80年代のアメリカ経済には暗雲が立ち込めていた。ジミー・カーターに引き継ぎ、81年に大統領に就任したのは、ロナルド・レーガンだった。レーガンのとった、新自由主義的な政策である、「小さな政府」は、これまであった格差をより広げ、アメリカの製造業に深刻なダメージを与える事になる。その影響は諸外国との貿易にも及び、日本との間には貿易摩擦が生じる。そして国内には自動車や電化製品など海外からの輸入品で溢れ返るのだ。失業中のマレーや、町の住人も指摘しているように、アメリカ製ではなく、外国製が使われるようになっていく。

グレムリンとは、なんのメタファーなのか?

格差が拡大して、アメリカ経済が下火になっているところへ、海外からの輸入品が次から次へと大量に入って来る。そんな中、突如として、チャイナタウンから、やって来たモグワイが、増殖し、変体し、町を襲う。この見事なシンクロが偶然の一致であるだろうか。グレムリンとは、諸外国から、大量に入って来た輸入品のことだ。一匹なら、害の及ばない、可愛いモグワイだが、それが大量に増殖すると、外来種のように国内の生態系に影響を及ぼす事になるのだ。つまり、この映画のタイトルが、モグワイやギズモではない理由には明確な根拠があるのだ。

あの名作映画も同年代につくられていた…

アメリカにとって不遇だった80年代。日本はバブル経済へと突入するわけだが、それとは対極に、「こんちきしょう!見てろよ、メイク・アメリカ・グレート・アゲイン!!」的な映画が『グレムリン』の翌年につくられている。ロバート・ゼメキスがメガホンを取り、マイケル・J・フォックスが主演を務める『バック・トゥ・ザ・フューチャー』シリーズだ。アメリカが豊かだった、50年代へとタイムトラベルするというもので、ドクの日本製だから故障するという言葉に、日本製が一番いいんだよと返すマーティのセリフは、今となっては、すっかりと立場が逆転し、見る影もなくなった日本が輝かしく感じられる、ハイライトシーンとなってしまった。


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