お花畑 わたしはだぁれ? ここはどこ?
ロンドンに住む高齢の父親とその娘の物語、映画「ファーザー (The Father '20年)」を観ました。
アンソニー・ホプキンスが2度目のアカデミー主演男優賞に輝き、またアカデミー脚色賞も受賞した本作の素晴らしさは私が語るまでもないので、ストーリーのほんの一部を紹介しながら個人的な感想を述べたいと思います。
父親のアンソニーは81歳で認知症を患っており、自分のこともよく分からなくなるほどで、娘のアンの世話になっています。
アンは嫌がる父親を施設に預け、パリで恋人と新生活を始めようとしています。
一方別のシーンでは、アンが夫と自分の生活を犠牲にしながら、懸命に父親の世話をしています。
映画は認知症のアンソニーの視点で描かれているので、何が真実なのか判然としません。
献身的なアンに対し、気持ちの制御も効かなくなってしまった父親が、そこには居ない別の娘ルーシーの方を「お気に入り」と呼ぶあたりが悲しく、切ないのです。
多くの人が、年老いた親との距離で悩むのかもしれません。私もその一人で、昨年母が倒れた当初は冷静さを失い、近くにいる弟を差し置いて自分が両親の面倒を見たいと考えました。
そのときの私は本当は親孝行な娘などではなく、まだ親に愛されたいと願う子どもだったのです。夫や息子たちとの生活よりも、自己イメージを優先しようとしていたのでしょう。
認知症の父親を施設に入れ、恋人のもとへ発とうとしている娘は冷たいのか。
不満をぶちまける夫を横目に父親を優先する娘は親思いの良い子なのか。
そんなふうに子どもをジャッジしたりする前に、親も自分の内面の問題に早めにカタをつけておいた方がいいなあ…
ラストシーンのアンソニーの姿を見て、私はつくづく思ったのでした。
一緒に映画を観ていた夫は、私とは全く違ったことを感じていたようです。頭をガーンと殴られたような衝撃を受けたと言います。
「オレが見て感じているこの世界も、オレの脳のバグが創り出した『まぼろし』なのかもしれないな…多分あの爺さんと同じくらいか、もっとひどい。」
おっ、まさかそんなことを思っていたとは。
「ファーザー」はNetflix、U-NEXTなどで視聴することができます。