最小限のメディア費で最大限の効果を狙うクリエイティブとは!
最近、気になるテレビCMがあります。
「100万円からはじめられるテレビCM」のテレビCMです。
以前はテレビCMといえば多くの人々に接触させるために高額なメディア費を必要とするイメージがありましたが、最近は少し変わってきたようです。
とはいえ、メディア費を抑えるためにはターゲットの絞り込みが必要です。
これまで細やかなターゲティングが可能なのはデジタル広告の専売特許のように思っていましたが、いまやメディアプランニングの進歩でマスの代表であるテレビ広告でも十分に絞り込みが可能になったということでしょう。
いま広告代理店には、マス広告であれデジタル広告であれ、
ターゲットを絞り込むことで、メディア費を効率的に抑えながら効果を最大化させることがこれまで以上に求められています。
今回はメディアプランニングの視点ではなく、広告クリエイティブの視点でこの話をさせて頂きます。
はじめまして。ADKの金行利博(かねゆきとしひろ)と申します。
元々はリアルなプロモーション領域の出身で、その後に様々なプランニング領域を経験して、今はクリエイティブの部署に所属しています。
垣根を越える経験がいまのスタイルをつくった
私がクリエイティブに深く関わるようになったのは、19年前に担当したあるビタミン炭酸飲料の仕事がきっかけでした。
当時すでに黎明期の音楽フェスと深く関わっていた私は、社内の一部の営業に音楽好きとして知られ始めていました。
そんなある日、音楽関連の企画を考えてほしいと社内の営業から連絡がありました。
その仕事はコンペ案件なのですが、話を聞くとクライアントさんもさることながら、ある音楽アーティストを口説ける企画が必要だとのことでした。
クライアントさんが今後新たな展開をしていく商品の世界観に最適な音楽アーティストがいると指名してきたのです。
はじめは当時コンペの勝敗を決める上で本流だったクリエイティブ企画が別に存在し、その派生企画としてプロモーション企画を出せば良いのかと考えていました。
そこで、商品ターゲットである高校生向けに、音楽チャンネルと組んで学校でのゲリラライブ企画を考えました。
当時はまだテレビ番組でも学校でのゲリラライブ企画はなく、その音楽チャンネルとしても日本では初の試みという状況でした。
そんな中、その企画を営業とクリエイティブチームに話すと「それをCMの企画にもしてしまおう!」という話に。
そこで、ゲリラライブで一気通貫したプレゼンを実施し、クライアントさん、アーティスト、双方が企画に前向きな反応をして下さり、コンペに無事勝利することが出来ました。
けれども、問題はそこから。
まず撮影OKな学校がなかなか見つからず、撮影場所が未定なまま時間が過ぎていきました。
毎週の様に、学校探しの定例会をしていた記憶があります。
番組のみの企画とは違い、CMの企画が学校に入り込むことはとてもハードルが高いことでした。
この待ち時間を許してくれたクライアントさんと営業には今でも感謝しています。
いざ撮影する学校が決まっても、ゲリラライブという性格上、生徒には内緒のまま、アーティスト、CM、番組、PR、それぞれのスタッフの準備・セッティングが必要でした。
それら全てのディレクションを私が担当しました。
このCMはオンエアされると大きな反響がありました。
校内で突然ライブが始まり、それに反応した生徒達の驚きの表情は仕込みの演出では得られないもので、スタッフ全員が心を動かされました。
当時はまだ設定だけで演出がないドキュメンタリーCMは珍しく、他の作り込み型のCMとは全く違った印象を与えたのです。
この仕事でCMとイベントと番組という垣根を超えた組み合わせが相乗効果を生み、単純なメディア投下以上の広がりを起こすことを学びました。
そして、この仕事で初めてカンヌ広告際メディア部門のファイナリストにもなりました。
この経験をきっかけに私は、クリエイティブにも関わり、イベントにも関わり、メディアの企画にも関わるという、広告代理店としてはかなり珍しいスタッフとなったのです。
広告代理店で働く今の若者には想像もつかないと思いますが、「クリエイティブ」「プロモーション」「メディア」の垣根は今では考えられないくらい高かったのです。
そしてその垣根があることが、私にはとても窮屈に感じられました。
その後、デジタルの台頭という予期せぬところからこの垣根が解消されていくのですが、当時の私にはまだ想像もつきませんでした。
当時はまだ「垣根を越える」この職種に明快な名前がなかったので、その頃使われ始めた「コミュニケーション・プランナー」を名乗り始めました。
たぶんADKで実質的なコミュニケーション・プランナーの第1号だと勝手に思っています。
Viral Entertainment Creativeとは
私はいま「ADK CREATIVE MALL」を掲げるクリエイティブユニットの中で「Viral Entertainment Creative」という戦略コンセプトのチームに属しています。
このコンセプトはまさにメディア費を効率的に抑えながら効果を最大化させるクリエイティブの考え方です。
「バイラル」という言葉からデジタルに対応した「新たな広告クリエイティブ」である様に思われるかもしれませんが、それは一面的な解釈です。
むしろ、従来からある広告クリエイティブの本質を受け継ぎながら、今の時代にアップデートさせたコンセプトと考えて頂いた方が正しいと思います。
このコンセプトの私なりの定義を「バイラル」「エンターテインメント」それぞれの語源から説明します。
「バイラルの」の語源は「ウイルス(virus)」で、「ウイルスが広がるように拡散する」という意味ですね。
この言葉はデジタルコンテンツの拡散を意味して使われる場合が多いのですが、特にデジタルコンテンツに限定したものではありません。
受け手自身が能動的に接触して自主的に広げていくものであれば、起点となるものはどんな媒体でもどんな手法でも構わないと思っています。
受け手の「自発性」と拡散の「連続性」の意味が込められており、これは広告表現の定義であると同時にコミュニケーション構造の定義でもあります。
「エンターテインメント」は3つの語源から構成されていて、”enter“ は「中の」、”tain“ は「つかむ」、”ment“ は「心」 に相当するそうです。
”entertainment“ には 「人の(中に入り込んで)心をつかんで離さないこと」という意味が込められています。
「エンターテインメント」はアニメや音楽やお笑いなどのコンテンツの意味として使われる場合が多いですが、単純なコンテンツタイアップという手法論に限ったものではありません。
私は語源に意味するように「感情で人を動かすクリエイティブ全般」と広く捉えています。
感情で人を動かすという考え方は従来からある広告クリエイティブの本質で、商品やサービスと人との関係性はそこで初めて成立するのだと思います。
これにバイラルという能動的に接触し、自主的に周囲に伝えていきたくなるようなコミュニケーション上の工夫を加えることで、今の時代に即した広告クリエイティブの考え方にアップデートさせました。
『人の心をつかんで離さない拡散性のあるクリエイティブ』
Viral Entertainment Creativeはこのように定義されます。
好きが、好きを産む!
このコンセプトが効果を最大化させる理由の一つは、受け手である人間の特性に合わせたアプローチだからです。
バイラルエンターテインメントは、人間の本性である感情に訴えかけるクリエイティブです。
認知なのか、好意なのか、購買なのか、目的はいろいろありますが、そこには感情を伴うアプローチを行う方が効果が上がると考えています。
既に著名なクリエイターが様々な著書で述べていますが、人間は自分で思うほど理屈では動いてはいないということです。
損得で動くよりも好き嫌いの感情で動く場合の方が多いと言われています。
しかも感情は共有されやすいです。
好きなこと、嫌いなこと、驚いたこと、面白いこと、これらの感情が共有されやすいのはSNSの投稿を見れば一目瞭然ですよね。
さらに感情の共有は連帯感に繋がっていきます。同じアイドルやアーティストを好むファンが強い仲間意識を持つのはこのためです。
私はアイドルやアーティストのプロモーション施策を経験したこともありますが、大抵の場合、プロジェクト自体の告知費用は少なく、ファンの協力により拡散してもらう仕組みとなるケースが多いです。
認知がどこまで広がるかという不安があることもありますが、アイドルやアーティストを支えるファンの連帯感は凄いです。
ファンのSNSでの投稿からTwitterトレンド1位となり、多数のTV番組に取り上げられる程の話題となることもあります。
「好き」という感情から、ファンは自主的に情報を拡散し、自主的に商品を購入してくれるのです。
好きが、好きを産む!
この人間の本性がViral Entertainment Creativeの根底にある考え方です。
コミュニケーションは「狭く深く」へ
メディア効率の視点だけではなく、感情に訴えかけるという意味で、コア・ターゲットは絞り込んだ方が良いと思っています。
広いターゲットの共通項でアプローチするより、同じ想いのターゲットに絞り込んでアプローチした方がより深く刺さります。
時代の変化で人々の価値観の多様化はさらに促進されました。最近、ダイバーシティという言葉がよく聞かれるのもそのためだと思います。
ダイバーシティは企業経営等で使われることが多い言葉ですが、これは社会全般に当てはまることだと思います。
「一人ひとりの違いを認識する」ことの重要性は広告クリエイティブにおいても大切になってきているといえます。
テレビドラマ「エルピス」「大豆田とわ子と三人の元夫」「カルテット」などのプロデューサーである佐野亜裕美さんは、雑誌MEN'S NON-NOのインタビューでこう話しています。
マスと言われるテレビドラマの世界でも、このように一人に語りかけるような発想で作品をつくり多くの人の心をつかんでいるものがあります。
マーケティングはマスからパーソナルに進んでいると言われています。
パーソナルな感情的な繋がりこそ、心を動かし周囲に広がっていくのだと思います。
ターゲットを絞り込み、そこから感情の共感で広がっていく。
Viral Entertainment Creativeはそんなコミュニケーションです。
PR施策がバイラルエンターテイメントの土台に
この思考が身に付いたのは、先ほどのゲリラライブCMに携わるよりも前のことでした。
元々プロモーション領域で外資系のファッションブランド等を担当していた私はPR施策を多く経験していました。
例えば、イベント起点のPRプロモーションでは、参加者に直接的に深いブランド体験をさせることで、感情を大きく動かし、そのことが周囲の人たちに広がっていきニュースとなります。
PRでは、知っている人と知らない人、体験者と未体験者など、意図的に情報格差の状況をつくることで「バイラル」を仕掛けます。
その際に、どんな人たちを通じて伝播してもらいたいかも大切な視点です。
ブランドのPRでは、年齢や性別といったデモグラというよりは、同じ趣味・嗜好をもつコミュニティを意識して考えます。
コミュニティにアプローチする際は、その人たちの嗜好を知り、他のコミュニティとの違いを認識した上でリスペクトして接することが重要です。
例えば、「音楽好き」という趣味・嗜好においてコミュニティの存在は様々です。
音楽といっても、洋楽・邦楽の違いもあれば、ロック、ジャズ、ヒップホップ、などジャンルの違いもあるでしょう。実際にはもっと細かく複雑な嗜好の違いでコミュニティは形成されています。
その際、一塊に「音楽好き」とアプローチしても誰も振り向いてはくれません。
そのコミュニティならではの他との違いを認識してアプローチしてこそ、深い共感が得られ情報が伝達されていきます。
「さすがこのブランドはわかっているね!」と思われる様に接することが、最終的にブランドのファンをつくることにも繋がっていくのです。
まだ、デジタルの台頭前のSNSもなかった頃の話ですが、この経験がその後の「バイラル」の仕組みづくりにとても役立っています。
Viral Entertainment CreativeはPR施策が応用された考えだともいえます。
顧客は「お友達」の時代?!
最近の社会の変化は広告会社よりもむしろクライアントさんである企業にとって大きな影響があることだと感じています。
顧客の多様化がさらに進み、かつてのような大きな経済成長が期待できない日本においては、大きなターゲットボリュームの新商品や新サービスの投入は難しくなってきていると思います。
そうなると様々に細分化された小さなターゲットを一つひとつ攻略していかなければなりません。
以前よりもさらにメディア効率が求められるのも当然な結果です。
最近、デジタルやテクノロジーを武器に顧客と直接繋がっていくD2Cブランドの存在が注目されています。
D2Cブランドでは一人ひとりの顧客と直接繋がって、顧客と「お友達」の様な感情的な関係性を持つことが特徴とされています。
そうすることで一度の購買だけではない長期的な関係性を目指しているのです。
この顧客との関係性は今やD2Cブランドに限らず、あらゆる企業に求められてきています。
ただしここで難しいのは、顧客の多様化が進んで一律の対応をしていたのではなかなか「お友達」にはなれないということです。
LUCKY TAPESという バンドの歌詞にこんな言葉があります。
「誰かの好きは、誰かの嫌い」
これはまさに多様化の進んだ今の時代を切り取った言葉だと思います。
ブランドを自分自身の周囲との関係性に置き換えて考えてみれば、全ての人と意見が合うことは難しいことだと理解できるでしょう。
嫌われないことを目指す八方美人的なアプローチではなく、たとえ一部であっても大好きなファンを創る、そんなアプローチが大切になってきたのだと思います。
確固たる意志を持ってしっかりとブランドストーリーを伝えていくことが必要なのです。
最後に
ここまで、Viral Entertainment Creativeについていくつかの角度から語ってきました。
最後に私なりの「最小限のメディア費で最大限の効果を狙うクリエイティブ」開発のポイントを以下に整理します。
・メディアや手法に囚われずにPR効果のあるコミュニケーション構造を作る
・感情に訴えて「好きが、好きを産む」バイラルを狙う
・ターゲットを絞り込みパーソナルなアプローチを心掛ける
・絞り込みの際は同じ趣味・嗜好を持つコミュニティを意識する
・八方美人ではなく、確固たる意志を持ってブランドストーリーを語る
かつてメディアや手法の垣根を窮屈を感じ、マスコミュニケーションの時代からターゲットを絞り込んだアプローチをしていた私のスタイルは、知らず知らずのうちにデジタルの恩恵を受けて、今の時代でも通用するコンセプトとなりました。
こんな私なので、このnoteも万人ウケする内容ではないかもしれませんが、
もし共感いただけた方がいらっしゃいましたら、ぜひご一報頂ければと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。