全文無料【エッセイ】豪雨とnoteと生きづらい私
「どうせ、あんたがやったんでしょ。」
「また、よづきさんが商品を破損させました!」
いや、違う。
私じゃない。
そう思ったのに喉が石みたいに固くなって、声が出なかった。
「もたもたしてないで早くやって。」
やっとるわ。私はあなたの10倍は動いています。
もちろん、言葉にはならない。
身を縮めてなんとか「はい。」と絞り出すのが精一杯だった。
ああ、嫌だな。
帰りたい。
気持ち悪い。
横になりたい。
重い心と身体がいよいよ音を上げる。
「ばちばちばちばち・・・。」
何かが勢いよく窓を叩く音に私の意識は掬い上げられた。
午前9時、ベッドの上。
私ははっと目を開ける。
ああ、なんだ。
あんな店、とうの昔に辞めたんだった。
頬が僅かにひりひりする。
指でなぞると涙が渇いた跡があった。
眠気と怠さが蟠る身体を起こしてカーテンを開ける。
外はざぁーと激しい音を立てて雨が降っていた。
窓を力強く雨粒が叩く。
そういえば、始めてバイトをさぼったあの日も雨だった。
行きたくなくて消えたくなって、泣きながらバイト先に休みの連絡を入れた。
さぼるなんてとても許されたもんじゃないけれど、あの時は自分を守るのにそれくらいの選択肢しか見つからなかった。
だから間違いだなんて自分を責めたことはない。
あの日は夏の始まりだというのに、冷たい雨だった。
時給1000円と引き換えに私の命が消えてたまるかよ。
そんな思いでその店を辞めたんだった。
あの日に比べて今日の雨はぬるい。
触れなくたって分かる。
この雨はぬるい。
着替えて、顔を洗って、洗濯機を回して朝食を済ます。
そして、もう1度窓の外を見た。
しばらく乗っていない私の軽自動車。
滴る雨粒が涙に見える。
私は昔からそうだった。
傷つけることが怖いから、私の不器用な手で壊してしまうのが怖いから触らない。
触りたくない。
例えば7歳の時。
誕生日に親が買ってくれたお気に入りのはずの自転車。
転んで傷をつけてしまうのが怖いからずっと軒下に置いてあった。
「せっかく買ったんだから乗りなよ。」
「自転車さん、泣いてるよ。」
そんな家族の何気ない言葉に胸が締め付けられた。
私も乗ってあげたかった。
でも、どうしても触れるのが怖い。
もう見るのも辛い。
軒下で放置され、錆びついた自転車の心情を思うと苦しかった。
小さくて痩せっぽちだったあの頃の私は、部屋の隅、自転車と壁1枚を挟んだ場所に蹲り1人泣いた。
過去の私からしたら、自分の心情がこうして発信されるなんて思ってもみなかっただろうななんて私はこのnoteを書きながら思う。
以前の私は紙のノートに書き留めておくだけだった。
でも、その時の私の方がもっと純粋な思いで文章を書いていた。
大人になって、noteを始めていつのまにか文章に対する想いは混じり気の多いものになってしまった。
嫉妬、羨望、劣等感、自己顕示欲。
そんなざらついた感情が自分から出たものなんて信じたくもないけれど、でも紛れもなく私の一部なんだ。
そんな黒い感情も、訳もない不安も、耐えがたい恐怖も、あの日の過ちも、トラウマも、悲しみも悔しさも、もういっそ思い出も、楽しさも、喜びも、全部全部、洗い流してくれ。
ごうごうと音を立てて降る温い雨に私は祈った。
夏も終わりの台風の日、アンニュイな気分で書きました。
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最後までお読み頂きありがとうございました。
よづきでした。
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