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だから、奈良はやめられない。知れば知るほどうるわしきまち
何度も前を通っているのに、入ったことは無い。
そんな場所ってありませんか?
先日、ぶらっと奈良に行きました。
行き先を決めず、とりあえず近鉄電車に飛び乗って「近鉄奈良駅」を目指します。
今日はどこに行こうかなー
いつも同じとこだなー、と
車窓から、のどかな景色を眺めつつ、奈良のまちなみを思い浮かべます。
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あ、そう言えば!とひらめいた今回の旅のテーマは、
『まだ見ぬ奈良に会いに行く』
奈良にはもう、何十回、
いや、勤めていたから千回以上は行っています(それはズルいか)
でも、一度も行ったことがない場所が、
名勝依水園と、文豪・志賀直哉の旧宅でした。
奈良へ
京都を出た急行は50分ほどで近鉄奈良駅に到着します。
駅前には早朝から外国人観光客のお姿が。
昔はガラガラやったけどなーと振り返りつつ、若草山の麓を目指します。
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私は朝の奈良が好きです。
空気が澄んでいて、牧歌的な雰囲気すら感じる。
まさに国のまほろば。
若草山からの朝日も神々しく感じるのです。
駅から歩いて約10分。
若草山を背景に趣ある門扉が見えてきました。
名勝・依水園です。
お庭の美
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依水園は、奈良を代表する池泉回遊式の日本庭園。
2つの時代が異なる庭で構成されています。
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前園は江戸時代に奈良晒で財を成した清須美 道清が作庭。
後園は明治時代、実業家 関藤次郎により作られました。
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早速、順路に従い後園へ
建物の脇の小道を抜けていくと、若草山を借景に素晴らしい景色が目の前に広がります。
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築山を回り込むように園内を進んでいきます。
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寒波が訪れた日。
庭の池には氷が張っています。
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東屋に立ち寄りお庭を眺めます。
足元の苔に見入ってしまいました。
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後庭には柳生一族の菩提寺「芳徳寺」から移築した「柳生堂」と、新薬師寺の古材を使って明治時代に建てられた「氷心亭」があります。
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築山へと登っていきます。
回遊式庭園は、ちょっとした旅気分を味わえて楽しい。
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築山に登ると、立派な一枚岩に「依水園」と刻まれた石碑が迎えてくれます。
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あたりを見渡せば、そこには里山の風景。
趣のある水車小屋もあります。
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このお庭で私が注目したのは、石材の転用。
庭の至る所に、元◯◯と思われる石が使われています。
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大きな建物を支えていたらしき礎石。
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池の飛び石は、石臼
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このお庭では、桜、ツツジ、杜若、睡蓮や紅葉など四季折々のお花が楽しめますが、冬は彩り少なく静かなもの。
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その代わり、水音に耳を澄ませながら、心穏やかな時を過ごすことができます。人も少ないですしね。私は冬のお庭が好きです。
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こういう構図が結構好き
ひな祭り
母屋では(3月3日まで)ひな祭りを開催中。
とっても立派な雛人形が展示されています。
曲水の宴
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こちらのお雛様は、後園を作られた関さんがお孫さんために特注されたもの。
東京大空襲を乗り越え、長らく蔵の中で眠っていたものを、ご子孫が依水園に寄贈され、毎年ひな祭りの時期に展示されているのだそうです。
お雛様といえば、段飾りを思い浮かべますが、こちらのは横に長く平面に、「曲水の宴」を再現したもの。
私は初めて見ました。
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水の流れを囲み、歌詠みをされている様子が表現されています。保存状態が良かったのか、お着物や表情も長らくお蔵入りしていたとは思えない美しさです。
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稚児びな
七段飾りは「稚児びな」と言われるもの。
幼稚園のお遊戯会みたいで、とっても可愛いのです。
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文豪の美
続いて向かったのが、春日大社を過ぎた先、高畑にある志賀直哉の旧宅です。
春日山の麓に広がるこのあたりは、今でも閑静な住宅地です。
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志賀直哉は、より良い創作環境を求めて、東京から京都の山科に転居します。
京都の住まいは健康に良くなかったようで、さらに奈良に移住。
その4年後、自ら設計したこの家で9年間、家族と暮らしました。
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窓が広い。志賀直哉もここから外を眺めて物語を構想したのかな・・
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志賀直哉唯一の長編小説「暗夜行路」はここで執筆されたのだそうです。
表から見ただけでは想像できないほど、中は広く複雑に、たくさんのお部屋があります。
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明るい日差しが天井から差し込む
和室や茶室、とってもモダンでおしゃれな洋室、冷蔵庫を備えたキッチンやシャワー完備のお風呂場など、当時最新の生活様式を取り入れていた様子が伺えます。
また、部屋が全て個性的。
文豪の美意識とこだわりが伝わってきます。
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「食ひものはうまい物のない所だ」
志賀直哉が随筆『奈良』の冒頭に記した一文です。
奈良を愛した気持ちが、その後長く奈良の悪口になろうとは…
ご本人も予期してなかったのかも知れませんね。
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ここを訪れると、志賀直哉の奈良への愛と暮らしを感じることができる。
私も文豪の暮らした足跡をたどりながら、名作が生まれ出た雰囲気をじっくりと味わえました。
私もここでnoteを書いたら名文になるのかな?
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美味し奈良
そうだ、お昼を食べに行こう。
今日のテーマは、
『まだ見ぬ奈良に会いに行く』
そこで、前から気になっていた「七福食堂」さんを目指します。
七福食堂さんは、風情あるまちなみが続く「ならまち」の中にあります。
奈良の食材を使った月替わりの「季節の定食」が人気です。
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この日は11時30分の開店前に到着。
私が1番乗りでした。
実はこちらの定食、Instagramに予約方法の記載が。
ところが私は使ってないので見れず…
ちょっと不安でしたが、大丈夫でした。
店内は、10席ほどのカウンターと1卓だけのテーブル席。
工場を改装した店内は無機質な感じがしつつも、温かみがあります。
ここだけ別の時間が流れているような落ち着いた雰囲気です。
今月の「季節の定食」は、
豚汁を主菜に、菜の花のお浸しなど、体に優しいものばかり。
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まずは、豚汁から。
寒い中を歩いてきましたからね。
豚肉の旨みが溶け込んで、素直でとっても美味しい。
冷えた体にじんわり染み渡ります。
ほぐれるー
「温玉はお好みで」とご主人。
半分ほど食べ進んだところで、するんと豚汁に。
より濃厚な味わいに変化します。
金柑とかぶらのマリネ、節分大豆も素材の味がじわっと滲み出てくる感じ。
30回は噛んで食べたくなるほど、丁寧に味わいたいものばかりです。
美しくて美味しくて、幸せ。
◆
実はこのお店、もうひとつの「季節もの」があります。
それは、隔月で変わる「季節のパフェ」
ちょっと迷いましたが、せっかくだしと思ってお願いしました。
今月は「苺とサヴァランのパルフェ」
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パフェの上にはフランスの焼き菓子「サヴァラン」がちょこんと乗っています。
これが、しっとりしていて美味しい。
いきなり舌を持っていかれました。
その下からは、酸味が程よい甘いイチゴ
あっさりとしたカスタードクリーム、
サクサクのパイ
そして、風味豊かなバニラアイスと続きます。
そして、最後は甘くとろける苺のコンフィチュール
美味しい協奏曲に、酔いしれました。
見た目はボリューム感がありますが、とても優しい味で軽やかに食べられます。食後でも全然大丈夫です。
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見た目にも美しく、丁寧な仕事が伝わるもの
ごちそうさまでした。
(*必ず事前に営業日をご確認ください)
お腹も心も満たされた至福の奈良旅。
京都とは違った素朴な風景と、静かな時間があります。
奈良の良さは見えにくい
でも、知れば知るほど、どんどん魅力が出てくるのです。
だから、奈良はやめられない。
また、そっと隠れた魅力を見つけにきます。
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