支援員の心のマネジメント
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今日はテーマは現場職員のための心のマネジメントについてお話したいと思います。支援の仕事は大きなやりがいがある一方で、メンタルの健康に大きな影響が出やすい業務とも言えます。それは日本の福祉業界の環境が成熟しきっていないことも影響し、業務の采配や処遇、強い想いなど負担がかかりやすく、法人としても対策がされきっていないとも考えられます。現場の職員が抱えるストレスやしんどさを少しでも職場環境の改善で向き合い、対応していくヒントを模索したいです。今回は、6364文字でした。
1.現場職員の業務について
今、障害者支援の現場にいる支援員の多くの職業は対人援助職と言われています。対人援助職とは「人々の困りごとや悩みを聞き、解決に向けて共に歩む職業」と言えるかもしれません。対人援助職は、医療、福祉、教育など、様々な分野で広範に用いられる言葉であり、分野や文脈によって定義が少しずつ異なる場合があります。また、医師、看護師、心理学者、社会福祉士など、様々な専門家がそれぞれの視点から対人援助職を定義しているため、一つの定義に収まりきらない側面があります。日本においては対人援助という概念自体は歴史が浅く、その定義も時代とともに変化してきたと考えられます。
皆さんが行っている現場の支援、いわゆる対人援助は、人々の心のケアや生活支援を行う非常にやりがいのある仕事ですが、同時に多くの困難も伴います。例えば利用者支援をする上で相手の苦しみや悲しみを深く受け止め、共感し、寄り添い、尊重する姿勢は自分も感情的に消耗することがあります。中には表出の仕方が私たちの期待とは違う方法の方もいて、対応するのにそれが複数の利用者、ご家族を担当する場合、それぞれのケースに心を砕くことで、精神的な負担が大きくなるでしょう。
また、境界線の設定の難しさから支援者と利用者、ご家族の間に適切な距離を保つことが難しい場合があります。それは過度に感情移入したり、逆に距離を置きすぎてしまったりしてバランスをとることで援助者が精神的に疲弊し、燃え尽きてしまう可能性があります。
業務をしていく上で相手の生活に大きな影響を与えるため、責任の重さを感じやすいです。支援がうまくいかず、利用者の状況が悪化してしまった場合や関係者や周囲の言葉に、自分を責めてしまう方もいるかもしれません。一般的に評価されにくい側面もあるため、なかなかポジティブに切り替えれないこともあるでしょう。
これらは仕事の中で、自分の感情を抑制したり、特定の感情を表に出したりするよう求められる労働だと言えます。言い換えれば、自分の本当の感情とは異なる感情を演じることが求められる仕事と言えるでしょう。つまり対人援助職である障害者支援員の方々は感情労働をしていることになります。
2.感情労働で陥りやすい状態
感情労働を行う現場支援者は利用者の生活を豊かにする上で重要な役割を果たしています。一方で、その感情労働が職員の心身に与える影響は大きく、様々な課題も存在します。感情労働が引き起こす課題としては一番大きなことは上記に記載したとおり、精神的な疲労、心理的な消耗です。自分の本当の感情を抑制し、隠すことで、普段の生活からストレスや疲労を感じやすくなります。
この精神的な疲労が起こす問題はみなさんもご存じかもしれません。例えばバーンアウト(燃え尽き症候群)があります。これは仕事や活動に対して強い意欲や熱意を持って取り組んでいた人が、突然その意欲や熱意を失ってしまう状態を指します。無気力、疲労感、集中力の低下、身体症状などが現れます。次にうつ病です。感情の抑圧やストレスが長期化することで、うつ病を発症するリスクが高まります。うつ病は、気分が強く落ち込み、憂うつになる、やる気が出ないなどの精神的な症状のほか、眠れない、疲れやすい、体がだるいといった身体的な症状が現れることのある病気です。
さらに不安障害としても出てくることがあります。不安障害(不安症)は、日常生活で過度な不安や恐怖を感じ、それが持続的に続くことで生活に支障をきたす精神疾患の一つです。不安は誰にでもある自然な感情ですが、不安障害の場合はその不安が過剰で、コントロールが難しくなります。将来に対する不安や、対人関係への不安など、様々な不安を感じやすくなります。そして心的外傷後ストレス障害(PTSD)もあるかもしれません。トラウマとなるような出来事を経験し、その出来事が繰り返し頭に浮かんだり、悪夢を見たりする状態です。症状として、トラウマとなった出来事がフラッシュバックや悪夢として繰り返し思い出される再体験症状やトラウマを思い出させる物事や場所を避けるようになる回避症状。常に緊張状態にあり、眠れない、集中できない、イライラしやすいなどの過覚醒症状や物事の捉え方が歪み、過剰に他者や自分を責めたり、深い罪悪感や無力感を感じたりする認知と気分の陰性変化があるかもしれません。
3.業務や組織に与える影響
現場支援者の視点から考えるとその職員の精神的な負担が大きなことがよくわかってきました。そういった精神的な消耗が多い状況から様々な状態をいち早く改善していかなければ、よりよい支援や質の高い支援にはつながりづらいと思います。
例えばメンタルヘルス問題を抱えた職員は、仕事に対しての満足度が低下し、離職に繋がる可能性が高まり、離職率が増加するでしょう。バーンアウトやストレスにより、集中力やコミュニケーション能力が低下し、サービスの質が低下する可能性や虐待防止の観点からもリスクが高まることが考えられます。また、ストレスを抱えた職員同士の衝突や同僚や上司との人間関係の悪化により組織内の雰囲気に悪影響を与える可能性や職員の不満やストレスが利用者やご家族に伝わり、負の感情の連鎖がるかもしれません。つまり、職員の離職や状態の悪さ、ネガティブな状況から組織全体の生産性低下に繋がります。
こういった組織全体への影響から人材の確保・育成が困難になります。つまり、厳しい労働環境や、低い待遇などが原因で、優秀な人材の採用・定着が難しいでしょう。さらに職員のメンタルヘルス問題や、サービスの質の低下は、組織のイメージ低下に繋がることと思います。
このように感情労働は個人においても、組織においても大きな影響を及ぼすことがわかりました。きっと皆さんは前向きに業務に取り組まれ、よりよい支援の提供を目指していると思います。では感情労働をどのように考えればいいでしょうか?個人の視点と組織としての視点で整理してみます。
4.個人の視点から考える
まず個人として考えてみましょう。障害者支援の現場で働く職員にとって、感情労働は避けて通れないものです。利用者の方との深いつながりの中で、様々な感情が揺さぶられます。この感情労働に向けてどのように捉え、向き合っていくかが、職員の心の健康と、ひいては質の高い支援の提供に大きく影響します。
①自己理解を深める
毎日感じたことや考えたことなど自分の感情を認識することで、自分の感情の波を客観的に捉え、自己理解を深めることができます。強まっているストレスに気づきやすくなったり、ストレスの要因となるものを特定できたりすることはセルフケアにつながります。また、自分の強みや好きなことを改めて認識することは仕事や生活に活かすことができ、自己肯定感を高めることにつながります。より深く自分自身と向き合うために、専門家への相談し、サポートを受けることもいいかもしれません。
②ストレスマネジメントをする
感情労働で疲れた心を休めるためのリラクセーションは欠かせません。ヨガ、瞑想、深呼吸、入浴や森林浴、運動や趣味の時間など、自分に合ったリラクセーション方法を取り入れることで、心身をリラックスさせます。また、友人とのコミュニケーションによって悩みや喜びを共有することは、孤独感を解消し、新たな視点を得ることができるかもしれません。無理のないようしっかり休養し、心身ともに休めることが大切です。生活習慣を見直し、時間管理をすることでもストレスマネジメントにもつながります。栄養バランスの取れた食事をして、過剰なカフェインやアルコールの摂取は控えましょう。
③境界線の設定をする
仕事とプライベートを明確に分けることで、仕事でのストレスをプライベートに持ち込まないようにしましょう。仕事が終わったら業務のことは考えないようにする、休憩時間にはリラックス時間を確保するなどオンとオフのメリハリをしっかりとつけましょう。また、利用者やご家族の方との関係は大切ですが、個人的な感情であまりに深く関わりすぎないようにしたり、こちらに向けて深くかかわらせたりするようなことは避けましょう。
④自己肯定感の向上を行う
目標を達成したり、利用者の方から感謝されたりしたときには、それをしっかりと自分自身で認めるようにしましょう。小さな成功体験を積み重ねている実感を持つことで、ストレスを軽減し、気持ちの安定につながります。また、 「私はできる」「私は役に立っている」など、肯定的な言葉を自分にかけることで、自己肯定感を高めることができます。自己肯定感を高めることは自身の源となり、モチベーションの促進やポジティブ思考の促進につながります。
⑤組織への働きかけ
職場環境や業務内容について、改善してほしい点があれば積極的に意見を伝えましょう。労働環境やそういった状況への対策や対処について検討していただくこと、自分の状態について相談していくことも大切かもしれません。 また、感情労働に関する研修や、ストレスマネジメントに関する研修などを開催してもらったり、参加したりしたい希望を伝えてもいいかもしれません。
⑥周囲にサポートを依頼する
心身の不調を感じたら、1人で抱え込まず、周囲の力を借りながら、自分自身と向き合うことです。信頼のおける上司や同僚、友人に相談したり、心理的な専門家に自身の相談をしましょう。要因が支援のことであれば、支援の専門家に対応することも必要かもしれません。
5.組織の視点から考える
次は組織の視点から整理してみます。運営管理者は、この問題を深刻に捉え、マネジメントの視点からも留意する必要があります。
①感情労働の理解を深めること
感情労働の定義と種類を整理し、障害者支援における感情労働の具体的な事例を把握、その多様性と複雑性を理解することが重要だと考えます。感情労働が職員の心身に与える影響(バーンアウト、うつ病、不安障害、PTSDなど)を具体的に把握することや組織全体への影響として職員の離職率の上昇、サービスの質の低下、組織全体の生産性低下など、組織全体への影響を考えていくことにつなげます。
②職員の現状を把握する
職員一人ひとりと定期的に面談を行い、仕事に対する悩みやストレス、感情的な負担などを聞き出すことやストレスチェック制度を活用し、職員の心理状態を客観的に把握することが大切です。職場環境や業務内容に関するアンケートを実施し、改善点を見つけることもいいかもしれません。制度やフィードバックを活用することはちゃんと現場職員に対して対応していることが安心感を生み出すことも考えられます。
③組織全体のサポート体制の構築をする
もちろん経験豊富な職員や上司が、悩みを抱える新人職員をサポートする仕組みを構築することだけでなく、職場にカウンセラーを設置するなどして悩みを抱えた職員が気軽に相談できる窓口を設けることは大切です。また、 職員が仕事とプライベートを両立できるようなワークライフバランスを推進し、労働環境や労働条件を整えることは職員にとって長期間働ける安心感になると考えられます(柔軟な働き方、休暇制度の充実など)。ストレス対処法や心の健康に関する知識を職員に提供する研修や教育の機会を作ることでもサポートができるかもしれません。
④健全な現場マネジメント
感情労働は、個人の性格や特徴によるものと捉えられることが多く、職業的能力として十分に認識されず、報酬に反映されないことが問題視されています。職員負担を軽減するため、適切な人員評価と人員配置を行うことや非効率な業務を見直し、改善していくことが重要だと考えられます。人材育成、職員の機能を明確にすることでサービスの質の向上を行うことで働きやすい職場となり、感情労働で消耗しやすい業務でも安心して取り組むことができます。
6.プロフェッショナルであること
障害者支援における感情労働は、職員の心身に大きな負担をかけ、組織全体の運営にも影響を与える深刻な問題です。運営管理者は、職員の現状を把握し、組織全体のサポート体制を構築することで、この問題に対処していく必要があります。マネジメントの一つとして捉えてもいいかもしれません。
また、現場職員にとっては、障害者支援の現場では避けて通れないものです。しかし、感情労働をどのように捉え、向き合っていくかによって、職員の心身の状態や、ひいては利用者への支援の質が大きく変わってきます。職員一人ひとりが、感情労働について理解を深め、自己肯定感を高めながら、組織全体のサポートのもとで、安心して働ける環境を築いていくことが大切です。
感情労働についての研究は様々に進んでいます(例、久村ら:感情労働化する社会における感情労働の特徴とその効果:2023。関ら:感情労働に関する研究の概括と展望:2012。佐藤ら:感情労働の本日に関する試論:2012)。私たちはその感情労働者として理解を深めるためにも学びが必要だと思います。
私としては支援のプロフェッショナルになるためにはこういった業務に「我慢する」だけではないと考えています。それを理解し、対処していくことも法人や職員が深めておかなければいけない重要な要素だと感じます。冷静に今のサービスや制度を活用し、それぞれに負担が隔たりすぎない状況も大切ではないでしょうか??特に法人が利用者支援を大切にしながらも、それをサポートしている職員への評価や配慮を怠らないようにしなければいけません。ひいてはそれが持続可能な支援、健全な関係づくりになるように思われます。利用者、ご家族のためにも現場職員たちが健康でしんどくない状況を作れるように検討するのも一つの支援なのではないかと…
本日も最後まで読んでいただいてありがとうございました。よければメンバーシップに入ってくださいね(^^)
collaborate lab
高橋 大地