六月柿
私はトマトが大嫌いだった。
小学校の課題で、トマトを育てなければならなかったのだが、見事に失敗した。
茎はどんどん成長して黄色の花も見事に咲いたのだが、なった実は取るに足らないものであった。
「先生の言うように育てたのになぁ。。。」
トマトひとつも満足に育てられない自分に失望したのが、トマト嫌いになってしまった原因だろう。
現在27歳。
トマトは大好物の1つとなっている。
そのキッカケはトマトの別名を知ったことが始まりだった。
いつも通り、夏の蒸し暑い日に本を読んでいた。
そんなときに限って、読解するのに苦労する古書を読んでいた。
明らかにトマトを描写しているシーンに辿り着いた。
しかし、私が知っているその赤い果実は『六月柿 』と表記されていた。
違和感を感じた。
「ろくがつがき、、、トマトの古い呼び方。。。」
確かに、形は柿とよく似ている。
柿は大好きであったし、風情あるその呼び方に私はどこか惹かれてしまった。
人間の味覚は人間が恋におちるのと同じくらい不思議である。
トマトが『六月柿』と呼ばれた背景を知り、私は味覚まで変わってしまったのだ。
コロンとした丸いフォルムに、今にもはち切れんばかりの水々しさを兼ね備えた食べ物。
なんとも美しいこの食べ物が、私はとても好きである。
ヒトもモノも、その裏側に隠れた背景を知ると、
大嫌いも大好きに変わるのかもしれない。