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#44 危険球


言葉ってむずかしい。

思い通りにでてこなかったり、
思いと裏腹の言葉がでてきたり、
言葉を呑み込んだり、
ニュアンスの違いで誤った方向に伝わったり。

勢いのまま吐き捨てた言葉で、だれかを傷つけてしまったり。

言葉のコントロール力は、
歳を重ねれば上手になっていくのだろうか。

言葉の扱い方、技術面だけが問題ではない。

一喜一憂してしまうこと。
言葉によって振り回される自分がいることも、悩みのひとつ。

言葉って、その時々で重さが変わるの。

大切な人からの言葉で励まされたり、
力をもらったり、
傷口をふさいでもらったり、
思いもよらぬほど落ち込んだり、
頭の中で反芻しては気持ちがいまだに沈んだり、
見ず知らずの人、SNSの世界で見聞きする言葉に鋭い傷みを感じたり。

好きな人からの言葉は何倍もの自信と強さに変わって気力が湧いたり、
精神状態にも比例して、掻き消せない気持ちが膨れあがると体が鉛のように重く感じられてしまうことだって。

傷つけられたり、救われたり、重みがのしかかったり。しあわせな気分もどん底の絶望も。
良くも悪くもジェットコースターのようで、感情も乗車しているものだから、時折どうしようもないほど疲弊し切ってお手上げのときがある。

その度に前を向けるのは
言葉の良さを、言葉が持つ力を、言葉が人を繋いでくれる力を知っているからなんだと思う。
言葉に助けられた、力をもらった記憶がいまも支えているからなんだと思う。


.

プラスにもマイナスにも働く言葉の影響で、マイナスに傾いてしまったとき、支えが足りず言葉そのものから逃げたくなるときがあった。

そんなとき。
言葉の持つ力をふたたび思い出させてくれた、
言葉の力を信じたい、まだまだ信じてみたいと明るい気持ちにしてくれた作品がありました。

第4回京都文学賞最優秀賞受賞作
『危険球』( 木住鷹人さん / 早川書房 )


その夏の日、甲子園出場をかけた京都府大会決勝、球場は世界でいちばん熱かった。
木暮東工業のエース・権田至の手から渾身のボールが放たれた。境風学園の強打者・仁科涼馬が打ち返そうと踏み込む、その時___白球が頭部を直撃した。
球場の時が止まり、至の発した言葉だけが響いた。「あんな球、避けられるでしょ」
なぜ、そんな言葉が少年から放たれたのか? 至の言動に球審・鍋島は危険球退場を宣告、高校野球では異例のことだった。
まもなく世間の至への非難が、炎上が始まる。だが大きな混乱の中、"被害者"であるはずの涼馬は意外な言葉を口にする。「あれは危険球ではなかった」と。
伝わらない言葉のもどかしさの中で、本当に伝えたかったことのために真摯に闘う球児たちの姿を描き出す、熱く鮮烈な青春小説。


" 伝わらない言葉のもどかしさ "

うん。本当にそう。
言葉の足りなさ、
思いを口から出すときには自己検閲というフィルターはどうしてもかかるし(ときどき口の中に魔物でも住んでいるんじゃないかしらって思う)
受け手の心情や受け取り方、これまでの境遇、タイミングにもよって受け止め方もバラバラで、どこまでどう受け止めてもらえたかを100%把握することはむずかしいもの。

" 本当に伝えたかったことのために "

それでも時間をかけて、何度も挑戦して。
相手の胸にめがけて狙いを定めて、伝わるまであきらめずに言葉を投げつづける。


" 熱く鮮烈な青春小説 "

夏のある出来事を機に彼らに起こった変化、待ち受けるもの、ぶつかる苦難に、傷みを抱えながらもそれでも前を向いて変わっていく姿はやっぱりまぶしくて。
10代特有の悩みや葛藤が描かれるだけでなく、
大人が真剣に子どもと向き合い、かけ違いから生まれた溝を埋めようとする姿、ここにも光るものがあった。

読みやすさに加えて、
読み進めていて出会う日本語の綺麗さ。

語彙も豊富で、総合して木住きすみさんの " 国語感 " が好きでした。

冒頭の夏の試合シーンから、数十行ですっかり
真夏の暑さを身体で思い出し、あっという間にスタンドにいる感覚に。

言葉を追っていけば自然と映像を観ている感覚で、さらに登場人物を近くに感じる心情に胸が締めつけられながらも、ふわあっとやさしい言葉、力強い言葉にくるまれる瞬間が何と言っても本作の魅力でした。


共感する言葉に
心に留めておきたい言葉。

力強い言葉に
心がやさしくなるジーンとする言葉。

言葉の手当てを何度も受け、
読み返して血肉となってくれるよう
自分のために言葉を書いていた。


相手に伝えよう、届けようとする言葉がどれも誠実で胸に響いた。

大切に想うきもちをちゃんと言葉で伝える、
受け取った言葉を力に、今度は自分が相手に伝えていく。

そういった優しさと思いやりとちいさな勇気が
いくつも散らばっていて、伝染していくのが良かった。

言葉の力をひしひしと感じ、
相手にきもちを伝える、伝えようとする大切さをあらためて教わり、" 言葉ってやっぱり良いなぁ " と再確認かつ確信できるものが物語のなかにあった。

それから、
言葉の持つ影響力に触れ、
真実だけでなく中身までよく見るようにしたいと強く思った。

言葉を介してあっという間に広がってしまう恐さ。
ひとつの声に群がっては簡単に手のひら返ししてしまう人の声に嫌気を覚えたり。

SNSで飛び交う言葉、世間の声、バッシングなどの身勝手な発言、見かけに騙されず、作り上げられた虚像に惑わされず騙されず、正しさを見極めたい。

中途半端な声で作られた、つぎはぎだらけの声にどこまで耳を傾けるのか。
その都度立ち止まって、落ち着いて考えていかないと。

当事者だけが知っていることにするのでなく、寄り添って視野を広げて、ちがう側面から見る、考える、見つめ直すこと。
____信二が気持ちを落ち着かせて三球目の球筋をよく見て気づけたように。

思い込みや偏った見方から切り離すこと。
そして、気をつけたいのが正しさがすべてでないということ。正しければ良い訳ではないの。

周りから理解されずにいたいたるの言動が意味していたものから、そうなるにいたった境遇から人を深く理解することの大切さを痛感すると同時に、正しさを振りかざすことで無抵抗な人を無意味に傷つけてしまうことも思い知ったので。

それらも含めて、
隠されているものに気付ける人でありたい。
胸の奥にしまい込んだものに気遣える人でありたい。
なにより人を理解しようとしたい。
" そういう大人でありたい " とあらためて立ち止まることができた。

言葉が持つ力や、伝えるすばらしさも感じながら、それ以上に " 人として " の部分を磨いていきたいと刺激された作品でした。


想像力って、すごく大切じゃない?

気持ちを推し量る。目線を合わせる。
どうやったら届くかを考える。

きっとね、言葉を受け入れられるときって
言葉を飲み込んだときに、その想像力にあるやさしさ成分がゆっくり溶け出してハートまで届けてくれるからなんだと思う。

同じ言葉でも響く相手がちがうのはここにあって、その人が必要としていた補いたい成分が届いたときに、高い効き目があるのかなと。

想像力が弱まってしまうと、
同時に人に寄り添う力もしぼんでいってしまう気がしてる。

言葉のトゲや凶暴さ、
陥れるようなささくれだつ言葉は
寄り添うどころか心身を蝕む
文字通り"毒"そのものであるから。

だから体内に侵入してくれば、不調が起こるのは当たり前であって。
そもそもそんな言葉は体に入れない方がいいし、はじき返す抗体も持っていたいのだけれども。

素直に全部を聞き入れる必要もないし、
自分から言葉による毒のシャワーをわざわざ浴びにいく必要はないかな、と。
SNSを追いかけすぎないのも大切かな、と。

そして、自分の口から離れた言葉は、
故意でなくても想像以上に傷つけてしまう危険があり、間違った形で届かないよう気をつけなければいけないな、と。

だからこそ、
言葉を大切に、無意味に好き勝手投げず
相手の胸にめがけて投げていきたいな。

一生懸命考えた言葉を届けたいと思う気持ちを忘れないでいたい。

想像力があってこそ、言葉の力が活きると信じているから。

相手を想う。気持ちを推し量る。
心の中を照らすように追いかけたい。

そして心をあたためる言葉を、前を照らす言葉を、背中をそっと押してあげられるような言葉を、磨いていかないとね。

____至が何度も何度も練習を重ねていったように。


.

大人が真剣に対等に扱って向けてくれた言葉は胸の芯に届くものなんだよね。
言葉の力をちゃんと知っている、大切に扱っている人からの言葉は、より響くんだよね。

本作で、鍋島さんが至に言葉をつないで、
" ひとりじゃない " と伝えてあげる場面は、特にグッときた。

いくつになっても間違えることはあって、
自身の過ちや未熟さ、迷いや葛藤を抱えながらそれでも言葉にして伝えていく真っ直ぐさと、
固く閉ざされてしまった至の心をゆっくりほぐしてくれる、あのあたたかさとやさしさに、とにかく涙が溢れた。

高校生の至に対して向けられた言葉だったけれど、あの頃傷ついて泣きじゃくっていたちいさな至に、無力さを噛み締めていたであろう至の背中をそっとさすってあげる、すてきな言葉たちだった。
そうね、なんてかっこいい大人がいるんだろうと、わたしはうれしくなっていた。

" どうして言葉が信じられなくなったのか "
至のその背景には胸が苦しかったし、
よくここまでがんばって耐えてきたね、と
至の不器用でまっすぐで、どこまでもまじめでやさしくってひとりで抱え込んでしまう背中を見つめていれば思いは募ってばかりだったから、鍋島さんのあの時の言葉に、感謝のきもちで一杯だった。一読者が抱えていた、至に伝わってほしい思いを言葉で伝えてくれてありがとう!ってね。

人生において理不尽なことも、避けられないこともどうしたってある。
だれにでも間違いもあれば独りよがりになってしまうこともある。
どこが安全な場所か分からなくなる。

そんな時に理解してくれる人、導いてくれる人の存在はとても大きい。
ましてや多感なティーン時代。
見守ってくれる大人の存在、信頼できる大人の存在というのは彼らにとって大きな支えとなり、これからにも大きな影響を与えるものだから。

なので、
今まさにきらめきの中にいるティーンの子達、彼らと同じように懸命にもがいている子達に届けたい作品でした。
" 信頼できる大人体験 " というのをね。 
現実世界では思ったよりも出会えなかったりするので、フィクションの世界で心が回復する体験をしてほしいなぁって。

至のように心が粉々になる思いをした子、
いつかのわたしのように大人の言動に冷めて期待しなくなった子にどうか届くといいなぁ。

読了後には、あかるいあったかい気持ちが充電されるし、見える景色も、未来に抱く希望も、
なにより言葉そのものを見る眼差しの変化で受け取れる言葉がきっと増えると思うから。

心のやわらかさやしなやかさをね、育てる大切さ。
間違いを認める強さにも、
引きずっていた過去を受け止める強さにもなり、自分で自分を守れる強さに変わってくれる大事なものだから。

だからこそ本作の言葉を安心して受け取って、太陽のようにまぶしくてあったかい言葉の光をたっぷり浴びて、心潤されてほしい。

_____もらった言葉を自分にまっすぐ届けられるように。


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登場人物それぞれの心の内、揺れ動きがとてもよかった。

胸の内に抱える迷い、自信のなさ。
本音と建前。届けたい思い。

自分の無力さを抱えながらも、
目の前の相手に言葉と気持ちを伝える。
そこには、隠してる本音もあれば、オブラートに包んだ言葉まで。

建前って意地悪な含みばかりではなくて、
相手を傷つけまいとした " 思いやり " や、相手の好意を " ねぎらう気持ち " もあったりするよね。

Yes かNo や、ド直球ではない言い方。
曖昧なものにくるまれてるのは、やさしさでもあったりするの。
本音と建前を使い分けることは、相手を想う気持ちがなければ生まれていないと思うから。

再読して、さらに気持ちを寝かせて思ったの。
" 京都のぶぶ漬け " と同じだ、ってね。



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言葉を介して想いを伝え合って、
励まされて、心が解されて
絆も深まって、、、
そんな変化していく関係性を見れたのも好きなところの一つ。

人と人との関わりに、
心の通い合いにおいて言葉は、とても大切な切り離せない関係性にあるから。
だからこそ、言葉を使って想いをぶつけ合った先に見れた、関係性の変化や感情のあたたたかい交換、近づく距離感に思わず顔がほころんだ。

胸に秘めた思いは、
マウンドで活躍する選手だけでなく
補欠部員もマネージャーも審判員も
みんなそれぞれにあって、
明かされたその想いにも
心動かされては心打たれてた。


マネージャー・梨花ちゃんの葛藤やこらえていたものに共感して、とても近くに感じられて、至からの連絡場面には一緒になって感情と涙が溢れてしまった。
マネージャーとしての存在や役割、と幼馴染に対する想いとその距離感、バランス。
梨花ちゃん、がんばったね、と気持ちが込み上げていた。


周りから誤解され、
でもだれよりも心根がやさしくて、秘めた想いが強くて、負けず嫌いな至が。
人の痛みに無関心で最低な軽すぎる言動によって傷つけられた至が。

もう惑わされまいと必死にひとりで抱えて、投げやりになってだれの言葉も信じられなくなっていた至に。
言葉だけでなく、他者との関わりや他者からの介入を遮断することで心を守っていた至に、真っ直ぐとどいた言葉。

そこから、心の内に芽生えていくわずかな変化と、言葉にできずにいた溜め込んでいた思いが少しずつ和らいでくのを感じられ、安堵する思いだった。

大切な人がいてくれるから、
言葉というものが力をくれるから、
ずっと変わらずにいてくれるものがあるから、乗り越えられるものがあると、あらためて教わった。


賢さもあり、自分の立ち振る舞いを先に計算できたり面倒なことから遠ざけたりとバランスをとることに長けて俯瞰して自分を見れていた敏也が、
谷口さんや鍋島さん、至の言動を機に頭で計算した声ではなく、もうひとりの自分の声に耳を傾け、変わっていく自分に戸惑いながらも、変わろうとしていく姿もまた良かった。

それから鍋島さんと奥さんの会話、
息子・健輔との会話に、関係性の変化もとても良かった。

伝えることの難しさ、
言葉を手がかりに相手の気持ちを一生懸命考えることの大切さをあらためて実感する。

健輔くんの思いやり、本音に触れてからの鍋島さんのかける言葉の変化、言葉をコントロールしていく姿にも感動していた。

なんと言っても健輔くん。
とっても心優しくって、いちばん建前に優しさがくるまれていたなぁ。
親を想う気持ちと、自身のやりたいことへの違いに苦労も葛藤も沢山あっただろうに、なんていい子に育ったんだろうって。

" 親父らしいなぁって、思ったよ "
" 絶対にわかってもらえないだろうと思ってた____それぐらいガキだったんだ "
" 時々は振り返ってくれるって感じかな "

ほら、もう、滲む優しさを感じられる言葉たち。


天才がそばに居たら。
おまけに性格もルックスもいいときたら。
卑屈になってしまうのは自然の気持ち。
それでも何もない自分に出来ることを模索して、アイデンティティに揺れながら自立しようともがく信二に。
涼馬の影に隠れていた信二に。

自分では気づけない魅力に大人が気づいて伝えてあげる大切さ。
鍋島さんの信二へかけた言葉は、審判員としての務め以上のものに感じられ、その素敵な目に感動した。あの夏の続きを終えた彼らに、それぞれにかける言葉もまた良かったの。

個人的には谷口さんが魅力的で、もっと人生に迫りたかった。
大切な奥様と過ごしていた時間や、至の父・哲さんとの学生時代のエピソード...
谷口さん行きつけの「蔵」のお店の人から映された姿とか、ね。

もっと谷口さんのいろんな顔を、心に近寄りたいと、欲しがりさんになるほどでした。
そうだなぁ、最も口数が少ないのに、最も惹かれる存在でした。(簡単に言葉にしない格好良さというのも見せてもらったり...)

愛情深さも、自責の念も、後悔の思いの強さも、だれよりも言葉を呑み込んで抱えて、放っておけない存在でした。

胸に苦しみを秘めたまま過ごす時間は、
つらさが降り積もるものだから、
あの日、グラウンドという場所が思い出させる記憶に、あたらしい景色が加わっていった場面にじいんと感動していた。



ラストシーンの至の変化、心情もよかった! 
至の言動の変化にあたたかいものが待っています。
本作の読了後に味わう爽やかさ気持ち良さは、彼らのまっすぐな成長ぶりを見守れたうれしさによるものが大きいの。

至と涼馬の信頼関係。ここも胸熱でした。
ライバルでもあるけど、野球へ打ち込んでるもの同士が抱く信頼と尊敬があり、言葉にしなくても伝わる認め合う姿にも、グッときていた。


現代のタッちゃんとカッちゃんがいたの。
涼馬の、才能がありながら人二倍努力家なところ。悪いところがないんじゃないかって思えるほどの性格の良さ。環境が変わっても実績を積み重ねても変わらない謙虚さとやさしさ。
至の、内に秘めた熱さ。不器用なくらいの全力投球。傷つくことに慣れてしまい、背負っていってしまう痛み。言葉や態度とは裏腹のやさしさと思いやり。

涼馬がカッちゃんの影と
至がタッちゃんの影と重なり、
あだち充の世界に今も魅了されている者からしたら、懐かしさとうれしさが込み上げていた。

" 青春はね、心のあざ "
このフレーズが思い出されたり、
" 達也はそんな男じゃない "
理解してくれる大人がいてくれることの心強さを思い出したり。


あだち充さんの、言葉では描かれないあの空気感といい、といい、言葉以上の感情がぎゅっと詰められているあの世界観、
あの余白の美しさを知っている方、
『タッチ』が青春の1ページにあった方に、ぜひ。

『タッチ』は、簡単に言葉にはせず行動で思いを示す良さが描かれ、『危険球』には、言葉を探して葛藤がありながらも言葉にする良さが描かれているので。

わたしはどちらも好きでした。

揺れ動く感情から、かつて経験していた"あの頃の葛藤"、遠い過去になってしまった"まぶしい時間"の記憶が蘇りながら、
鍋島さん谷口さんの彼らを見守り励まし、時に導く姿がかっこよく、目頭が熱くなりました。

あの頃のまぶしい時間を過ごした大人に手に取って、ほぐされる時間を過ごしてほしいなと思いました。人生で経験していくままならなさ、複雑さ、逃れなさなど重たい荷物ばかり増えていくわたしたち大人こそ、立ち止まって、彼らの姿を見届けたい。本作をゆっくり丁寧に読む時間が生まれたらうれしいな、と。

ままならなさを経験し続けている大人に贈られた物語でもあるなとも思っているので。彼らの姿にかつての自分を重ね、あの頃の記憶が引き戻され、そして今の自分を見つめられる素敵な作品だと思います。

投げかけてくれる言葉のやさしさやあたたかさが、長いこと残されたままの傷痕に染み渡り、心が回復していくと同時に、わたしも近くにいる人の心をそっとあたためられるような素敵な大人になりたいと強く思う気持ちが芽生えていました。


若さは勢いでもあるし、
感情がおおきく、勢いで飛び出す。
そのティーンらしさ、青さが懐かしく羨ましく微笑ましく思えて、あいみょんのある歌も思い出されていた。


" 可愛く揺れなよ、双葉 "

ほんとこの気持ちでいっぱい。
彼らの若さも青さも悩みも痛みも甘酸っぱさもぜーんぶ、ティーンからどんどん離れていく大人には可愛く見えて仕方ないんだ。
これからが楽しみで仕方がないのよ。
どんな大人になっていくんだろう、ってね。


脱線に脱線を重ねて、
ふたたび主観的な話へ戻します。

本作を読んでほしいなぁと思った人は沢山。
今のティーンに、かつてのティーン。
とすると、老若男女みんなだったね。

著名人では、あだち充さん!
タッちゃんカッちゃんがいたんだよーってね。

それとね、重松清さん。
「卒業ホームラン」や「とんび」で味わった
複雑な感情に葛藤、でも目頭が熱くなる温もり
が待っている、そんな重松さんの作風がお好きな方にもぜひお勧めしたいです。

それと、お源!
星野源さんにも読んでほしい。
きっと好きだとおもうんだ。
好きだと思ってくれる予感がしてるの。多分この種の良さをね、わかってくれる人。
こちら側の人、と勝手に感じちゃってます。

あとね、ちょっぴり意外な路線で
さまぁ〜ずの三村さんにも。
実は読書がお好きな三村さん!
感動して泣いちゃったんだよー、なんて大竹さんに話しちゃうそんなホクホクした時間を想像しちゃったり。ふふ


以上、とても長くなってしまいましたが、寒さも深まり衣笠山きぬがさやまが雪化粧をする頃。
京都の景色も思い浮かべながら、いつの日かのまぶしかった日々も思い出しながら、本作をじっくり味わう冬読書にぴったりな一冊についての感想でした。

" 全世代が落涙必至の青春小説 "
" この小説の中に、情熱を込めて投げこまれていないことばは一球としてない。"

読後により光る、キャッチコピー。

後半にかけて試合に熱中して見逃せなくなるのと一緒で、どんどん引き込まれ感情が昂りながら夢中になって読んだ本作。
早川書房のイメージからすこしちがって見えた、変化球にも感じられた本作。

ぜひ多くの方に読んでいただきたい作品でした。


____そして、俺がそう感じることができたのは、君が話してくれたからだ。君の言葉があったから、俺は君の気持ちをほんの少し、知ることができたんだ。

京都の空気を纏った
すてきなすてきなサイン本が手元にあることが、大変うれしい。ありがとうございます。
大切な一冊です。

木住さん。京都文学賞最優秀賞受賞おめでとうございます。
とても素敵な物語をありがとうございました。(^^)
沢山感動をもらい、言葉にしたい想いで溢れました。


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