アカシの小さな冒険 第8話
アカシは、大学に休む旨を連絡し、しばらく静かに過ごそうと決めた。昨日の出来事はあまりに現実離れしていて、頭の中ではまだ整理がついていなかった。警察での事情聴取を終え、帰宅したのは午後6時台。身体は疲れ切っていたが、心の中には終わらない疑問が渦巻いていた。
家に着くなり、アカシは靴も脱がずにそのままベッドに倒れ込んだ。
「…今日はもう、何も考えたくない…」
独り言を呟きながら、アカシは天井を見上げていた。彼の脳裏には、侵入してきた女の顔や、警察での尋問内容が次々と浮かんでは消える。無理もない。突然、家に侵入され、命の危険すら感じるような状況に置かれたのだから。それでも、「調べなくちゃ」とどこかで思っていた。けれど、今日は体が限界だった。重いまぶたがゆっくりと閉じられていき、そのまま深い眠りに落ちた。
翌朝
アカシは目覚めるとすぐに、昨日ダウンロードしたデータを確認することにした。頭の中はまだぼんやりしていたが、何か決定的な手がかりがそこにあるはずだという直感に突き動かされていた。
「よし…やってみるか」
彼はパソコンを起動し、ファイルを開いた。そこには、昨日家に侵入してきた女性の名前が記されていた。「望月綾香」という名前だった。そして、そのチャットの相手はアイコンから「真冬」という人物のようだ。綾香はどこかの探偵事務所に所属しているらしい。
「探偵…？探偵がなんで俺を…？」
アカシは眉をひそめ、画面に目を凝らした。さらにスクロールしていくと、彼らがアカシをどうやって家から連れ出そうとしていたのか、詳細な計画が書かれていた。まずは販売員を装ってドアを開けさせ、次にスタンガンを使ってアカシを無力化し、その後別の人物が車で彼を運び去るという内容だった。
「…冗談じゃない。そんなことをしようとしていたのか」
冷や汗が背中を流れた。彼の家や周辺の写真が保存されており、防犯カメラの位置や死角までが細かく記されている地図まであった。アカシの家は人通りが少なく、隠れやすい場所にある。そのため、彼らにとっては理想的なターゲットだったに違いない。
「こんなことまで…」
アカシは画面を見つめながら、深いため息をついた。家に侵入されたのは、通常空き巣が最も狙いやすいとされる時間帯であることをネットで見かけたこともあった。その時間帯に、彼らは動いていた。
「奴ら、思った以上に計画的だな…ただ、俺が居留守を使ったから少し計画が狂ったのかもしれない」
心の中ではそう納得しようとしたが、もう一つ疑問が残っていた。それは、なぜ自分がターゲットにされたのか、ということだ。
「…俺を誘拐するなんて、何のために？そもそも、探偵がそんなことをするなんてありえないだろう。探偵ってのは、合法的に情報を集めるもんだ。どんな理由があったとしても、誘拐なんて許されるわけがない…」
その瞬間、アカシの胸の中にある疑念が広がっていった。
「彼女たち、本当に探偵なのか…？なんだか、大きな闇が隠れている気がする」
アカシの心は、次第に不安と恐怖で締め付けられていった。今は警察がパトロールを強化してくれているため、多少の安心感はある。しかし、時間が経ち、警戒が緩んだ頃に、再び彼らが動き出す可能性は否定できなかった。
「…何もしないで待っているわけにはいかない」
アカシはそう決意し、机の上に置かれた電話に手を伸ばした。
「今度は、俺から動く番だ」
彼は深く息を吸い、心を決めた。次の一手をどう打つか、慎重に計画を立てなければならない。相手が動き出す前に、こちらから仕掛ける必要がある。そして、すべてを終わらせるために。