アカシの小さな冒険 第5話
アカシは鼓膜の前に立ち、冷静にスマホを取り出した。彼が選択したのは、通常のスマートフォンとは一線を画す特別なアプリ。彼自身が改造したそのスマホには、音を自在に操る機能が組み込まれており、狙った対象を音波で無力化することができる。これまで危険な場面で何度も助けられてきた彼の秘密兵器だった。
「これなら確実にやれる…」
アカシはアプリを起動し、音量の設定を最大にして目的の周波数を選んだ。この音は人間には通常聞こえない高周波で、直接鼓膜を刺激して強烈な痛みや混乱を引き起こすことができる。しばらく操作した後、ついに再生ボタンに指をかけた。
「これで終わりだ…」
ボタンを押した瞬間、スマホからは見えない衝撃波のような音が放たれた。音は鼓膜に直撃し、その瞬間、部屋全体に振動が伝わった。巨大な鍾乳洞のような耳の内部が、音のエネルギーで震え、耳毛が揺れ動くのがアカシの目に映る。
「うわっ…これはすごい威力だ!」
彼女はその音波に反応し、突然耳を両手で押さえた。アカシはスマホをポケットに戻し、状況を観察し続ける。彼女の顔には一瞬、苦痛が浮かんだ後、徐々にその力が抜けていくのが見えた。
「効いてる…」
彼女の全身がふらつき、ついにバランスを崩して床に崩れ落ちた。音の衝撃により、彼女は完全に意識を失ってしまったのだ。
「やった…!」
アカシは息をつきながら、彼女が動かなくなったことを確認した。これでしばらくの間は安全だと判断し、素早く耳の中から脱出することにした。
「無事にやり過ごせた…さすが、俺のスマホだな」
小さなサイズのまま彼女の頭を離れ、再び元の大きさに戻ったアカシは、倒れた彼女を見下ろした。
アカシは倒れた彼女を見下ろし、完全に動かないことを確認した。
「これでしばらくは大丈夫そうだな…」
彼は彼女の手元に目をやり、スマホを握っているのを見つけた。気になって画面を覗き込むと、そこにはチャットアプリが開かれていた。新しいメッセージがいくつか表示されており、どうやら誰かとリアルタイムでやり取りをしていたようだ。
「…誰かと繋がってたのか?」
アカシは彼女のスマホをそっと手に取り、チャットの内容を確認することにした。画面には直前のメッセージが表示されていた。