アカシの小さな冒険 第2話

授業が終わった放課後。青山アカシは、特に急ぎの用事もなく、家に帰ることにした。家は大学から歩いて10分ほどの場所にあり、普段はそのまま歩いて帰るのが日課だが、今日は違った。少しスリルを求めていた。

「今日は…小さくなって帰ろうかな」

アカシは周りを見渡し、人の気配がないことを確認すると、すっと身体を縮小させた。いつものように、徐々に地面が自分に近づき、瞬く間にアリサイズにまで縮んでいく。巨大な世界が再び彼の目の前に広がった。

「よし、準備完了」

彼はニヤリと微笑んで、小さな足で家に向かって歩き出した。いつもの道も、アリサイズではまるで冒険の旅のようだ。大学の門をくぐると、車が列をなして走り、人々が巨人のように目の前を行き交っていた。

「やっぱり、この視点から見る景色はいつ見ても面白いな。全部が大きすぎて、普通の世界じゃないみたいだ」

アカシは足元で巨大な靴が通り過ぎるのを感じながら、興奮を抑えきれなかった。大学の敷地を抜け、いつもの道を進んでいく。車のタイヤが近くを通るたびに、アカシはその風圧に体を少し揺らしながらも、何とか進んでいた。

しかし、そんな彼に不意打ちが襲ってきた。彼が周囲の景色に見惚れていたその瞬間、後ろで巨大なパンプスが地面に降り立った。ズシンと大地が揺れ、次の瞬間、強烈な突風がアカシを巻き込み、宙に放り投げた。

「うわっ!?」

アカシは不意を突かれた感覚に驚きながら、空中で必死にバランスを取ろうとしたが、風に流されるようにして転がっていく。何とか体勢を立て直し、ようやく地面に足をつけたアカシは、息を整えながら上を見上げた。

そこには、20代くらいの女性が立っていた。茶髪でお団子ヘアをしていて、パンツスーツ姿のリクルートファッションだ。片手にはバッグを持ち、まるで巨大な塔のようにそびえ立っている。

「でっか…」アカシはそのあまりの大きさに目を見張った。彼女の靴一つだけでも、自分の何十倍ものサイズに見える。パンプスの側面は、まるで壁のように感じられた。

「一歩間違えたら、今ので潰されてたかもな…」

今は無敵状態なので特に心配する事もないが

彼女の動きを注意深く観察した。彼女は何やら下ををキョロキョロと見回している。まるで何か探しているかのように、立ち止まって周囲を確認しているが、その様子が何を探しているのかはわからない。

「何をしているのか?」

アカシは少し不思議に思ったが、そのままじっと観察していた。彼女が立ち止まると、その巨大な足元から少し風が巻き起こり、アカシはその風に再び軽く揺られた。しかし、彼女が特に何も見つける様子もなく、再び歩き出すのを見て、アカシも緊張を解いた。

「なんだったんだ? 落とし物を探していたのかな?」

アカシは首をかしげつつも、深く考えるのをやめた。彼女が歩き去っていくと、巨大な足音が遠ざかっていき、その場に静寂が戻った。

「まあ、何もなかったみたいだし、俺もそのまま帰るか」

帰り途中の公園で女性が6人円陣で」何か話していた。
近くに子供がいるからママ友だと思われる。

「なんの話してるんだろう…ちょっと聞いてみるか」

好奇心に駆られたアカシは、ママたちの立つ円陣に静かに近づいた。足元まで駆け寄り、彼女たちの中央へと入り込むと、見上げた先には、6人の女性たちの足元がまるで巨大な塔のようにそびえ立っていた。

「うわ、これ、本当にビルみたいだな…」

その光景に一瞬息を呑んだが、すぐに話に耳を傾けた。彼女たちの声は遠くからでもはっきりと聞こえた。内容は、最近の家庭の話や週末の予定など、よくある世間話だった。

「まぁ、普通の話だな…」

しかし、後半になると、ある話題が耳に入った。

「最近、この辺に小人がいるって噂、知ってる?直接見ると幸せになれるらしいよ」

「ほんとに?まさかそんな…でも、いたら面白いよね!」

「あはは、私も気をつけて見てみようかな」

アカシはその言葉に一瞬息を詰まらせた。

「え、俺のことじゃないよな?まぁ、バレても最悪いいけど…」

心の中でそう呟きつつ、できる限りバレないように気をつけていた。

その時、1人のママが言った。

「もうこんな時間か…子供たち、帰るわよ!」

「はい、ママ!」

ママたちは一斉に子供たちを呼び寄せ、帰り支度を始めた。それと同時に、彼女たちも足を動かし始めた。

「ちょ、ちょっと待ってくれ…!」

アカシは慌てて逃げ出そうとした。しかし、突然、巨大な足が自分の頭上を覆ったかと思うと、まるで隕石のように降りてきた。

「うわっ!」

アカシは必死にその場を飛び出そうとしたが、強烈な突風に巻き込まれ、地面に転がり込んだ。

「やばい!」

巨大な靴の足音が轟き、地面が震えた。彼女たちの一歩一歩が大地に衝撃を与え、アカシはその振動に耐えながら、必死に逃げ回った。

「早くここから出ないと…!」

次々と巨大な靴が地面に降り立ち、アカシはその間隙を縫って避け続けた。しかし、ついに避けきれず、彼は踏みつけられてしまった。

「ぐっ…」

彼の体は無敵だったため、痛みは感じなかったが、その重さと衝撃には圧倒された。

「これが踏みつけられる感覚か…まさに圧巻だな」

しばらくの間、アカシは巨大な靴の下で圧迫されていたが、やがてママたちは公園を去り、静寂が戻った。

「ふぅ…なんとか無事だったけど、今日もスリル満点だったな」

アカシは体を起こし、巨大な靴から逃げ回ったことを思い出し、少し笑った。

「これだからスリルはやめられない」

満足げに微笑むと、彼は家に向かって歩き出した。彼にとって、巨大な世界での冒険は日常だったが、今日の出来事は特に記憶に残るものとなった。

「さて、そろそろ元のサイズに戻るか」

人気のない場所に移動し、再び元の大きさに戻ると、アカシは夕暮れの中、家への道を歩きながら次のスリルを心待ちにしていた。


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